1月28日の花:ニオイアラセイトウ=愛情の絆
庵、京/嵐の夜に




数時間前の大雨で未だその猛りの衰えを見せない川を満点の星空が照らしている。
その河原に一匹の狼が打ち上げられた。
「…ぅ…」
数多く存在する黒狼の中でも極めて漆黒鮮やかな毛並みは水を吸ってその体に張り付いている。
震えるようにその瞼が持ち上がり、彼はむくりとその身を起こした。
「……生きてる……」
だが、濡れた体が凍えそうに寒くて堪らない。
「…イテテッ…」
体を動かすとその全てに痛みが伴った。恐らく川底や岩にぶつかった所為だ。
今は暗くて見えないが、日が昇れば恐らくこの体は痣だらけだと分かるだろう。
カタカタと顎が小刻みに震え、全身はもう寒さを通り越して痛みすら感じる。
「…いおり」
一緒に飛び込んだ彼はどうなったのだろう。
「庵ィ!」
痛む喉を酷使してその名を呼ぶ。
「いーおーりー!庵ィィ!!」
けれど、応えはない。
辺りを見まわしてもそれらしき姿も無い。
「ああ…庵…ごめん、ごめん、庵…こんな事になるなら、俺と出会わなければ良かったのに…あの時、あの嵐の夜、後で会おうなんて俺が言わなければ…」
肩を震わせながらそう呟いたその時、背後で声がした。
「俺は出会って良かったと思っているが」
驚いて振り返ると、そこには捜していた庵の姿があった。
「い、庵!生きてたんだな!!」
同じく全身は濡れそぼりこの月明かりの下でもそれと分かるほど顔色は蒼褪めていたものの、その視線はいつもと同じ不遜さが宿っていた。
「俺、もう会えないかと思った…」
引き寄せられるように彼らは抱き合った。
「お前が言ったのだろう。また生きて会うと」
既に感覚は殆ど麻痺していて暖かいのか冷たいのかすら分からなかったけれど、それでもその存在を確かめるようにきつく抱きしめ会った。
そして二匹は暗がりの中で干し草や落ち葉を集め、それに寄り添って包まい、何度も良かった、と繰り返しながら眠りに就いた。
だが、「良かった」と言えたのは、この時だけだった。

 

 

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