1月29日の花:カーネーション=あらゆる試練に耐えた誠実
庵、京/嵐の夜に




京と庵の行く所行く所、それはついてまわった。
「あの二人ですって。草薙と八神、初の異端の当主たちは」
「あの濁流の中で生きてたのか。運が良いというか悪いと言うか…」
リスやサル、小鳥達の密やかな声と視線が絡み付く。
京も庵もそれを気にしない様にしていたが、やがて耳に入ったそれにお互いに顔を見合わせた。
「草薙の側近達が主の目を覚まさせようと躍起になっているんですってね」
「八神の主を血祭りに上げれば目が覚めるだろうってね」
「ああきっとあの子、暫くは八神の肉しか食べさせてもらえないわね」
「八神は食糧なんだって分からせるにはそれが一番だろう」
冗談じゃない、と怒鳴ろうとした京の口を庵の掌が覆う。
「言わせておけ」
京は庵の掌を引っぺがし、だけど、と唇を噛んだ。
「このままじゃ、すぐに見つかっちまう…幾ら俺とお前が強くても、狼の群れには勝てねえ」
「……」
すると庵はすっと腕を持ち上げ、遠い山の彼方を指差した。
「京、見ろ」
「?」
その指の先には、白い雪を被った山が見える。
「聞いた事ぐらいならあるだろう。あの向こうにも、草原があるという話を」
「そりゃ、あるけど…」
けれどそれは口伝えに聞いた御伽噺の様な話。
本当にあの雪山の向こうに草原は広がっているのだろうか。
けれど、ここに居ても見つかるのがオチだ。
「……」
やがて京はこくりと頷き、庵に向かって片手を差し出した。
「行こうぜ…あの向こうへ」
庵はその手に己の手を重ね、そして二人はしっかりとその手を繋いで雪を被るその山へと向かった。

 

 

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