1月30日の花:ネコヤナギ=努力が報われる
庵、京/嵐の夜に




二匹はその山を目指して歩き出した。
昼間は小鳥やリス達の声が煩く、二匹は日が暮れるまでじっと岩や草の陰で身を寄せ合い、夜になると静かに歩き出す。
夜目の利かない庵の手を引きながら京が一歩先を歩いていく。
草薙の者にも、八神の者にも何とか見つかっていない様だ。
二人は常に共に居られることが楽しかった。
一緒に寝て、起きて、そして手を繋いで新しい世界を目指す。
それはとてもとても幸せな事だと思った。
ただ一つだけ、京には辛いことがあった。
生きて居る限り、当然空腹は訪れる。
そんな時でも傍らには八神の中で誰より優れた山羊が居る。
思う存分狩りの出来ないこの状況の中で、それは忍耐との戦いだった。
そして庵にも一つだけ、気に食わないことがあった。
自分が寝ている時に京がこっそりと出掛けて行く事だ。
そして帰って来た時には決まって血の臭いがする。
彼が肉食である以上、それは仕方の無い事だと思っている。
そして京が自分に気を使ってそうっと忍んで行く事も分かっている。
だが、やはり血の臭いは好きになれない。
そして今夜もまた、抜け出していた京がそうっと戻って来た。
夜の冷たい空気に混じり鼻腔を擽るのは、やはり血の臭い。
「今日は何匹殺して来た?」
「!」
寝ているとばかり思っていた庵の声に京の体がびくりと揺れた。
だが、すぐに言われた言葉の意味を理解した京はむっとして視線を逸らした。
「……言った方が良いか?」
やがてぽつりと洩らされたその声音は、傷付いたことを隠そうとする様な響きで。
「…すまない」
「良いよ、わかってるから」
庵の謝罪に京は月明かりの元、少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 

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