2月1日の花:フリージア=無邪気
庵、京/99




それはベッドに入ったばかりのみづきの一言から始まった。
「みづきはね、おかあさんのことこーんなに大好きだよ」
シーツの上で小さな両腕を広げてそう無邪気に笑うみづき。
すると京は自らもその両腕を広げ、
「俺はこーんだけみずきのことが大好きだぜ」
そう笑う。
するとみづきはベッドの上に立ち上り、精一杯背伸びをしてその腕を上へと伸ばす。
「おかあさんのこと、せのびいっぱい大好き」
「俺はみづきのこと、自分の背伸び一杯好きだぜ」
と京。
みずきは考えた。自分にはそこまで高い背も長い腕もない。
「おかあさんのこと、おうちを出て駅についちゃうくらい好きだよ」
「俺はみづきのこと、新幹線に乗って新大阪に行くくらい好きだぜ」
それはとっても遠くだ。
みづきはまた考え込んだ。
けれどみづきはもう眠くて何も思いつかない。
ふとみづきは窓を見た。
カーテン越しに差し込む月の光。
「みづきはね、おつきさまにとどくくらいおかあさんが大好き」
そう言うと、とうとう眠気に耐えられずにその眼を閉じた。
「そりゃ遠くだな」
京は微笑んでみづきを抱き上げ、みづきに蒲団を被せてやる。
「とてもとても遠くだ」
そしてみづきの額に掛かった黒髪をかき上げ、その額におやすみなさいのキスをした。
それからみづきの傍らに横になり、微笑みながら囁いた。
「俺はみづきの事、月まで行って帰って来るくらい、好きだぜ」


「………」
見下ろした先には眠りこけるみづきと京。
みづきを寝かし付けたらすぐ戻ると言ったのは何処の誰だったか。
やれやれと溜息を吐くと庵はベッドサイドに腰掛け、京の髪をそっと梳いた。
「京、月の光が照らす広さ以上にお前を愛している」

 

 

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