2月2日の花:イチゴ=甘い想い出 庵、京/嵐の夜に |
「こっからは草も余り生えてなさそうだし、今の内に食っておけよ」 そう言って京はさっさと姿を消してしまった。 庵は彼が狩りに行ったのだと知っていたが、もう気にならなかった。 確かに上っていくと岩ばかりで草はおろか、動物の気配も殆どない。 気温も少しずつ下がっていき、肌寒さを感じてきた頃、二匹は小さな峠に辿り着いた。 岩に腰を下ろし、二匹は目の前の夕日に染まる景色を眺めていた。 「…あ、あれってお前ん所の草原だろ」 「お前たちの住む谷も見えるぞ」 庵が京の指差したその少し離れた場所を指差すと、京は「ほんとだ」と笑う。 「こっから見るとあんなに小さいんだな」 「あそこにいた時には、気付かなかったな」 「でも、もしもう少し広かったら俺たち、今こうしてなかったかもな」 「そうだな」 だったら小さくて良いや、と京は微笑む。 「俺、お前と出会えて本当に良かったと思ってるんだぜ」 庵には、見えただろうか。 遠く、この山の麓。 狼の群れが、見えた。 やがて日は暮れていき、二匹はそのまま身を寄せ合って眠りに就いた。 「あ!」 ふと目を覚ました京が驚いたように叫んだ。 「庵、おい、起きろよ!」 「何だ…ああ、満月だな…」 「綺麗だよな!あの丘で見る月よりすっげえキレイ」 「あの時は霧が深くて見れなかったが……月の光は、冷たいのだと思っていた」 静かに二匹を照らすその銀の光はどこか暖かさすら孕んでいて。 「見てると嫌な事なんてみーんな忘れちまう。ああ、庵と一緒に見れて本当に良かった。これからもたくさん見に行こうぜ。何処が一番月が綺麗に見えるのか、探そう」 「ああ…そうだな」 「早くこの山、越えないとな」 二匹はまだ見ぬ新たな森を思い、再び眠りに着いた。 |