2月8日の花:シロタエギク=あなたを支える
庵、京/嵐の夜に




「…真吾は、俺が生まれた次の春に生まれたんだ」
山を下り、雪も漸く少なくなってきた頃、漸く京は口を開いた。
「真吾が生まれた夜の事、今でも覚えてる。もうその時には俺は次期当主として扱われててさ、その俺と同じ黒い毛並みだからって俺に名前を付けて欲しいって頼まれたんだ。
俺、そんな事初めてだったから迷いに迷ってさ。真吾のお袋さんとあーでもないこーでもないって延々と相談して。それで最終的に真吾って決まって…」
初めて抱かせてもらった時の事、今でもはっきりと覚えてる。
「すっげえちっちゃかったから軽いと思ったんだ。でも受け取ってみたら結構ずしっとしててさ。ああ、生きてるんだなって思った。
目が開いて歩き回れる様になってからはずっと俺の後ばっか追いかけてさ。俺もそれが嬉しくて、狩りの仕方とかも俺が教えたんだ」
徐に京の歩みが止まり、庵の足も止まる。
「ごめん、庵。庵は俺に全部くれたけど、俺、何も庵にあげらんねえ」
「……」
庵は何も言わない。
ただ無言でその手を差し伸べ、京の手を引いてここまで来た。
彼がどう思っているのか、知りたかった。
こうなってしまっては、と仕方なく思っているのだろうか。
「京」
山を下り始めてから初めて庵が京を呼んだ。
「俺は、お前が傍に居ればそれで良い」
そして再び歩き出す。
「……」
京は手を引かれるまま庵の後に続き、やがてその隣りに並んだ。
その顔は微かに微笑みを浮かべていた。
やがて二匹は新たな森へと辿り着く。
その手は、しっかりと繋がれていた。

 

 

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