2月10日の花:ジンチョウゲ=喜びをください 庵、静、京/2001 |
夕食は、まあそれなりに和やかに済んだ。 みづきはすっかり静に懐き、よそってもらった鶏肉や白菜を突付いていた。 京大も京也もいつもよりは静かではあったがしっかり食べていたし、庵も父、紫舟も黙々と箸を進めていた。 夕食が済み、改めて京が今までの経緯と京大、京也、みづきを自分の家族としたいという意志、そして庵と生きていくつもりだと告げた。 紫舟は何も言わず、ただ腕を組んでそれを聞いていた。 やがて徐に顔を上げたかと思えば妻を呼んだ。 「静」 「はい」 夫が何を言いたいのか察した彼女はそっと立ち上がり、和箪笥の小棚から一冊の通帳と印鑑を差し出した。 「あなたのお金よ。好きに使いなさい」 その通帳の名義は確かに京の名前になっている。だが、京は通帳を作った覚えもそれを依頼した覚えも無い。静はうふふ、と笑った。 「あなたが毎月振り込んでくれていたお金だもの。貴方が好きにして良いのよ」 家を出てから京は稼いだ金は殆ど母の口座に振り込んでいた。 根無し草の生活が多かったし、カード類も持っていても無くすのがオチだと持たなかった。 ただせめて、心配ばかり掛けている母には楽をして欲しかった。 好きに使って良いからと電話で告げたきりで、こうして保管されているとは考えた事も無かった。 「使ってくれて良かったのに…」 すると静はころころと鈴の転がるような笑い声を上げた。 「あんなにたくさんのお金、逆に勿体無くて使えないわ。新しく家でも買えって事かしらって本気で悩んでしまったもの」 咄嗟に京也が通帳に手を伸ばし、京大にその手を叩かれていた。 「はしたない」 「だって幾らあんのか気になるじゃんかよっ」 そのやり取りを静はくすくすと笑って見守っている。 「京大ちゃん、京也ちゃん」 「へ?」 「はい」 「京とそっくりだけど、でも少しずつ違うのね、二人とも」 その言葉に二人は確かにこの人は『草薙京』の母だと感じた。 庵ですら未だに見分けのつかない二人をもう見分けている。 「あなたたちも、いつでも帰っていらっしゃいね」 静の言葉に、二人は安堵したような表情を浮かべ、そして小さく頷いた。 |