2月11日の花:アザレア=愛の楽しみ
庵、静、京/2001




「なんか修学旅行思い出すよな」
今に布団を並べながら京が弾んだ声で言う。
「庵、お前って修学旅行どこだった?」
枕を投げながら問うと、彼は受け取った枕を蒲団の定位置にぼすっと置きながら短く「北海道」と答えた。
「北海道かー。俺沖縄だったぜ。冬だっつーのに暑くてさぁ」
「そーいやみづきは?」
押し入れから蒲団を引っ張り出していた京也が姿の見当たらない子供を探してきょろきょろと視線をさまよわせる。
「あー、お袋とオヤジがさぁ孫が出来たのが嬉しいらしくてさぁ一緒に寝るんだとさー」
「ふーん。京大、枕パース」
「あーどっか旅行行きてえなー。北海道行こうぜ北海道」
「寒いの嫌。沖縄の方が良い」
「えー、俺京都・奈良行きたい。大仏見たーい。鹿煎餅食ってみたーい」
「バカあれ鹿の餌だっつーの」
「人間でも食べれるんだろ?」
「マズイからやめとけって」
「何、京食ったことあんの?」
「おうよ。グループのヤツら全員で食ったぜ。味無くってマズイのなんのって」
「庵は何処行きたいんだ?」
「コイツの場合『京が居れば何処でも良い』とか言うって絶対」
「アッハハハハハ!!」
「……」
まるでそれこそ修学旅行の夜の様な騒がしさで四人(内一人は聞いてるだけ)はその夜を過ごした。


その頃のみづきはというと。
「お父さんとお母さんは仲良くしてるかしら?」
静の布団に一緒に入ったみづきはうーんとね、と考え込む。
「ときどきケンカするけどすぐおとうさんがごめんなさいするの」
「やはり八神の倅の方が大人じゃのう」
紫舟の呟きに静がくすくすと笑みを零す。
「でもね、よるになるとおとうさんがおふとんの中でおかあさんをいじめるの」
げっほげほげほ。
噎せた紫舟の咳き込む音と静の「あらあら」という笑い声が室内に響いた。
「若いわねえ…あらあら、お父さん大丈夫?」

 

 

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