2月22日の花:イワレンゲ=家事に勤勉 庵、静、京/2001 |
京の自宅で一泊した庵たち御一行。(何だ御一行って) さすがに二泊は気が咎めるという事で昼過ぎに暇乞いをしようと思ったのだが。 「もう一泊くらいしていきなさいな。ほら、いつもお父さんと二人きりでしょう?久しぶりの大人数で嬉しくって」 にっこりと微笑む姿は確かに京と遺伝子が半分繋がっていると思わせた。 と、いうことで。 「京ちゃん、ジャガイモと玉葱切ってくれる?」 「んー。人参って扇形?」 「そうそう、これくらいに切っていってね」 台所で並んで料理を作る母と子。 「おかあさん、おばあちゃん、みーきもてつだうー」 そこに小さな体で精一杯自己表現をする孫。 「お、みづきも手伝ってくれるのか?」 「うふふ、じゃあみづきちゃんはジャガイモさんを洗ってね」 「あーい!」 それはとても微笑ましい光景なのだが。 「……」 それを新聞越しに複雑な気分で見詰めるオッサンが一人。 「おかあさん、じゃがいもさんつるつる」 「おっし、あとはおかーさんに任せなさい」 既に馴れてしまったのか母と呼ばれる事に躊躇いの無い京。 京が息子ではなく、娘だったのなら何も問題はないのだが。 「……」 そして視線を縁側へと向ければ。 「おりゃあ!くらえっ!」 「無駄だ」 「でやっ!」 「遅い」 京より僅かに幼い、けれど京とそっくりの面立ちの青年が二人、赤い髪の男に襲い掛かっている。 とは言っても火気厳禁の為、じゃれ合いに近い手合わせ。 先程から赤い髪の男はのらりくらりと避けてばかりで、京によく似た青年は一撃も浴びせられずにいる。 「だー!避けんな!!」 全く身勝手な文句と共に繰り出される拳も男はゆらりと軸移動して交わしてしまう。 それを眺めていると、傍らを京が通り過ぎていった。 「おーい、お前らそろそろ風呂入って来いよ」 エプロン姿が様になっている所が何とも。 「京大、京也、先に入れ」 ガードを解いてしまった庵につられて京大と京也も構えを解く。 「うーい」 「りょーかいっと」 ぺぺいっと靴を脱ぎ捨てて縁側に上がる二人に京が「こら」と声を掛ける。 「ちゃんと揃えて脱げよ」 「お前もよくやるだろう」 「うっ…」 さっさと風呂場に行ってしまった二人に代わって庵がその靴を揃えた。 そして土埃塗れのまま座敷に上がるわけには行かないと縁側で煙草を取り出した庵に「俺も一本くれ」と隣りにしゃがみ込む。 「お前はまだ夕食の準備があるだろうが」 「けーち」 そう言いつつも火を付けてやり灰皿を取ってやる京。 その光景は紛れも無く若夫婦のやり取りだ。 すると傍らを今度はみづきがぱたぱたと通り過ぎていく。 「おかあさん、遊んでちゃメッ」 「子供に言われたらお終いだな」 「うーるーせっ!はいはい、今行くって、ほらほら」 みづきの背を押しながら京が再び台所へと戻っていく。 「……」 台所の騒がしさとは裏腹に、一気に静かになる座敷と縁側。 紫舟は記事を読んでは見るものの、先程からずっと同じ個所を読んでいる気がする。 庵の方は全く気にならないのか、縁側でぼうっと煙草を吹かしている。 一本目の煙草が終わる頃、風呂場からゲラゲラと盛大な笑い声が二つ響いて来た。 すると庵は小さく溜息を吐いて立ち上り、風呂場へと向かう。 ギャハハハハ!あ、庵、見ろよキューピー!! それぜってー違うって!二本あんじゃんかよアハハハハ!! ギャー!つめてーー!!(二重奏) 心臓止まるだろ! この芸術心溢れる作品をなんっ うあっつっ!!(二重奏) わかった!わかったって! 京大と京也の肉体は十八歳にまで育った時点で調整層を出されたらしい。 だが、いくらクローンといえども記憶や経験はそれから積み重ねるものであり、彼らの中身は子供と然程変わらない。 みづき程ではないにしろ、精々中学生レベルだ。 その為、京の弟というよりはみづきの兄といった感じだ。 やがてぺたぺたと二人分の足音と共に色違いのパジャマを纏った京大と京也がやってきた。 「全く遊び心のわかんねーヤツだな」 「寝てる時に額に肉って書いてやろーぜ」 その声に気付いた京がひょこっと台所から顔を覗かせた。 「庵、もう入ってる?」 「おう」 「よっしゃ」 すると京は部屋を出ていき、寝起きした座敷から何かを持って風呂場へと向かった。 「何だ?」 「さあ?」 そして夕食がテーブルに並べられる頃、庵が姿を現わした。 「お、いい感じじゃん」 「ええ、よくお似合いよ」 灰色に藍の混じった着流し姿の庵に京と静が満足げに頷く。 「買い物ついでに見つけてさー。な、お袋」 「ええ、庵さんに似合いそうね、って」 「…どうも」 この二人ににっこりと笑われると何となく敗北感を感じて庵は視線を逸らした。 「さってと、飯食うか」 |