2月24日の花:アセビ=変わらぬ友情
紅丸、真吾、京/2001




京の行方が辿れなくなって二年。
僅かな間の再開。
それから、更に一年半。
「草薙さん、今頃どうしているんでしょうね」
空になったコーヒーカップの底を見下ろしながら真吾はポツリと呟いた。
「さあな…案外その辺にいるんじゃないか?」
紅丸は残り少なくなったコーヒーを飲み干し、ことりとテーブルに戻す。
おかしなものだ。真吾は元々は京の後輩だったというのに、彼が姿を消してからはチームを組んだ縁もあって時折こうしてティータイムを共にする。
彼がいなくては出会わなかった自分と真吾。
そしてその彼は今はいない。
「…あれ?!」
がたんっと突然真吾が立ち上った。
「なん…あれは!」
外へと視線を向けた紅丸もつられて立ち上る。
「草薙さんの…!」
何か探しているのか、きょろきょろしながら足早に歩く二人組。
誰しも彼らが双子だと思うだろう、その同じ顔立ち。
草薙京のクローンだ。
「二階堂さん!」
「行くぞ!」
二人はコートを慌ただしく纏い、紅丸は紙幣をレジに立っていたアルバイトの少女に握らせた。
「ごめんね、ちょっと急いでるから。おつりはそこの募金箱に寄付させてもらうよ」
今一つ決まらない文句だと自己採点しながら通りに出た紅丸は辺りを見まわす。
「二階堂さん、こっちです!」
逸早く二人の京の姿を見付けた真吾が駆け出し、それに続く。
やがて紅丸の目にもその二人の後姿が映る。
彼らは頻りに辺りを見まわしながら歩いている。
何かを探しているのか?それとも、逃げているのか?
さて、どうする。
声を掛けるか、後を付けるか。
すると二人は突然立ち止まり、言い合いを始めた。
「てめえがゲーセン寄ろうだなんて言い出すからだぞ!」
「んだよ!てめえだって乗り気だったじゃねえか!」
「うっ…お、俺が見てた時は隣りに居たんだよ!」
「俺の時だっていたっつーの!」
「じゃあいつ居なくなったんだよ!」
「知るか!」
どうやら誰かを探しているらしい。
もしかしたら、それは京に関わる事かもしれない。
「真吾、お前あっち廻れ」
「了解ッス!」
真吾が二人の前に現れると同時に紅丸は声を掛けた。
「誰か探してるのかい?」
女の子に向けるほどではないがそれなりの笑顔で問い掛けると、二人は訝しげに真吾と紅丸を見た。
「…こいつら、データに載ってた…」
「ああ、覚えがあるぜ、確か…」
「「チンコと新幹線」」
びしっと真顔でお互いを指差し、次の瞬間には大爆笑していた。
「ギャハハハハハ!!!だよな、だよな!!」
「俺っ、俺、初めてビデオ見た時『真吾キック』を『チンコキック』って聞き間違えてさー!ギャーハハハハ!!!」
「覚えてる覚えてる!!お前マジ驚いたツラして「チンコー?!」って叫んだよな!!ヒーッヒッヒッヒッヒッヒ!!」
「ヒッハハハハ!!そういうお前こそ二階堂を東海道って間違えてたじゃねえかよ!!」
「チンコよりマシだろー?!ヒヒヒッ、ダメだ、笑い死ぬ…!!」
二人とも近くの電灯の柱をばんばん叩きながらそれこそ笑い死ねそうな勢いで笑い続けている。
というか、街の往来でチンコチンコ連発するのもどうか。
「あっ!二階堂さんまで!!」
呆然と笑い爆発を眺めていた真吾が紅丸まで声を殺して笑っているのに気付いて声を上げた。
「だ、だってお前、俺のはともかくさ、お前っ…!」
「二階堂さん〜!!」
すると漸く笑いが収まって来たのか、二人が悪い悪い、と戻って来た。
「二階堂紅丸と矢吹真吾だな」
すると彼らは紅丸が何か言うより早く、
「丁度良い」
「頼みがある」
とそれぞれ真吾と紅丸の肩を掴んだ。
「子供を捜して欲しいんだ」
「子供?」
「そう、四歳前後の男の子だ」
「ぶっちゃけそいつも京のクローン」
「服装は…」
二人が身振り手振りで『四歳の京』を説明しているのだが、その二人の背後からざかざかと見知った男が迫ってくる事の方が紅丸には気になっていた。
「…あのさ、その子供って、あの子じゃない?」
「「どこ?!」」
紅丸の言葉にばっと背後を振り返った二人は次の瞬間、「げっ!」と顔を引き攣らせていた。
「けーた!きょーや!」
男に軽々と抱えられて手を振っているのは、紛れも無く探し人。
だが、抱えている男に問題があった。
「い、いっやーん、いおりーん」
「ここは待ち合わせ場所じゃないじゃーん?」
赤い髪の男は如何にも怒ってます、といった面持ちで四人の前に現れた。
「貴様ら…あれほどみづきから目を離すなと言っただろう…!」
殺気すら伴って二人を圧倒する。
「わ、悪かった、悪かったってば!」
「みづき、何処に居たんだよ」
「みーき、おかあさんのとこいってたの」
「あー!その手があったか!お前まだちっちぇえから電波(違)強えもんなー」
すっかり蚊帳の外になっている紅丸と真吾。
「…えーと、みなさん?」
「何だ二階堂。久しいな…なんだ、京の下僕まで居るのか。主を鞍替えたのか?」
「くっ…八神!」
明らかな嘲笑の笑みに真吾が身構える。
「待て、真吾」
「でも…!」
KOF97大会の時に病院送りにされて以来の再開だ。
構えるなという方が無理な話だ。
「それで?今度は二階堂の技を猿まねするのか?」
「この…!!」
だが、
「おとーさん、怒っちゃメッ」
ぺしんっと畏れ多くも八神庵のデコ、もとい、額を叩いたのは彼自身の片腕に抱き上げられている京そっくりの子供だった。
「「…おとーさん?」」
紅丸と真吾の声が見事にハモった。
だが幼子は一向に構う事無く庵の背中越しに見つけた姿に手を振った。
「おかーさーん!!」
「こらみづき、危ないだろう」
だがみづきと呼ばれた子供は全く意に介さず「おりる!」と暴れ始める。
「わかったから暴れるな」
すとんと地面に足を付けたみづきはその目標へと駆けて行く。
「おかあさん!」
ぽふっとみづきがしがみ付いたその人物こそ。
「草薙さん?!」
「京!?」
「あっれ、紅丸と真吾じゃん」
何してんの?
「それはこっちのセリフだっつーの!」
「草薙さあああん!!」
紅丸のツッコミを掻き消すように真吾が駆け出し、先程のみづき宜しく京に抱き着いた。
「うわわっ!何だよ真吾!」
「だって草薙さん!草薙さんだ〜!!」
結果、間に挟まれる事となったみづきといえば。
「みーきもぎゅー!」
やはり同じ様に京に抱き着いていた。
「……」
だが、それを微笑ましく見守れない男がここに一人。
「い、庵、落ち着け、落ち着け、な?」
「そうだぜ、久し振りに会ったんだし、あれくらいは許してやれよ」
「心の狭い男は嫌われるわよ」
だが説得虚しく五秒後。
庵に首根っこを引っ掴まれて京から引き剥がされる真吾の姿があった。

 

 

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