3月15日の花:リュウキンカ=幸福を待つ メロ、ホキ/2002 |
『あのさ、お袋…みづきたち三人、暫く預かって欲しいんだ…』 そう告げた息子の声は何処か遠く、追い詰められているような声音だった。 どうしたのかと問うても、曖昧な返事しか返って来ず。 翌日、僅かな荷物と地図を手に京大と京也、そしてみづきが訪れた。 何があったの?と問う静に、年長組は困惑げに顔を見合わせた。 そして一人が言いにくそうに事の発端を話した。 庵がみづきを庇って事故に遭い、記憶を失ったという事を。 そして八神に帰ると言い出した庵を京が閉じ込めてしまった事。 そこまで打ち明けると、静はふう、と一つ溜め息を落とした。 「あの子も変な所で神経質なんだから…」 そして仕方ない、と言わんばかりにもう一つ溜め息を落とす。 「あの子達の事は、暫く放っておきましょう。私たちが口を出しても今のあの子はきっと聞く耳持ちやしないんだから」 そうして静はあっさりとその日の夕食へと話題を転がした。 夕刻に紫舟が自宅へと帰ると、最近になって突然出来た息子と孫が居間で寛いでいた。 「おじいちゃん、おかえり!」 「おお、みづき。よく来たの」 飛び付いてくるみづきを抱き上げるときゃらきゃらと甲高い笑い声が上がる。 「あらあなた、おかえりなさい。お風呂沸いているわよ。もうすぐお夕食も出来ますからね」 「よし、みづきもじじと一緒にだんだ入るか」 「入る!」 紫舟とみづきが連れ立って風呂場へと向かうのを見送った静は一度台所へと戻り、火を弱めてから二人の着替えを取りに部屋へと向かう。 「京大ちゃん、京也ちゃん、おなべ見ておいてね」 「「了解ー」」 寝そべっていた二人は身を起こし、静の言葉通りに揃ってコンロの前に立った。 |