3月17日の花:インゲンマメ=喜びの訪れ
京/2P




「草薙さーん!」
放課後になるや否や威勢の良い声が教室内に響いた。
言わずと知れた京の自称弟子である矢吹真吾だ。
「草薙さん、今日はどうします?」
ゲーセン行きます?マックにします?
まるで新妻の「お風呂にする?ご飯にする?」の如くお伺いを立てる真吾に生返事を返しながら京はぺったんこになった鞄を手に立ち上がる。
「んー…今日は帰って寝る」
ふあ、と欠伸をしながらドアへと向かうと、あれ、と真吾が声を上げた。
「草薙さん、草薙さん!」
「あんだよ」
見てくださいよ、と続ける真吾の視線は窓の外へと向かっている。
「あ?」
「校門の所!草薙さんのそっくりさんがいますよ!ホラ!」
「はあ?…あっ!」
人待ち顔で門に凭れ掛かっている男は確かに京そっくりの顔立ちをしている。
「草薙さんの親戚ですか?」
嬉々として問う真吾の声を無視して京は廊下に飛び出した。
「えっ、ちょ、草薙さん?!」
何で。
何であいつがここにいるんだ?
今は京都に居るはずだろ?
いつこっちに来たんだ?
ていうか来るなら来るで一言連絡ぐらいしろよな!
いや、そんな事より!
結構久しぶりじゃねえか?
どうしよう、すっげ嬉しい!
ああもうだから前もって連絡しろっての!
知ってたら学校なんてサボったっつーの!!
逸る気持ちに後押しされるように騒々しくシューズからスニーカーへと履き替えて校門へと走る。
駆けてくる京の姿に気づいた相手がひらりと手を振った。
「陽!」
「おお、京!久しぶりやなぁ」
ヨウと呼ばれた男は京に酷似したその顔をへらりと崩して笑う。
「どうしたんだよ突然!しかもガッコまで」
「ま、取りあえず詳しい事は後で話すわ」
まあ乗りぃや、と親指で指された先には彼の愛車であるカーキ色のラシーンが停車していた。

 

 

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