3月20日の花:モモ=あなたに心を奪われた
青京/2P




「ようと京はあしたもいっしょにあそべる?」
やがて重い宿命を背負う事になるだろう子供が笑っていた。
俺より三つ年下の子供。
草薙家の次期当主。
草薙京。
京はくるくると表情の変わる子供だった。
何にでも興味を示しては知りたがり、俺がその答えに窮する事もよくあった。
かわいい京、愛しい京。
弟のように、否、掌の中で輝く宝物の様にそっと大切に慈しんできた。
直系でもない俺がどうして次期当主である京と一緒に居られたのか、その時の俺はそんな事を考える事も無く、ただのうのうと京の隣で兄貴面していた。
俺が十の年にその理由を知った。
俺は京の、『次期当主』の影武者だった。
そして漸く理解した。
京の仕種、癖、表情。
どれを取ってもはっきりと焼き付いている。
自分が京の傍に居られたのは、影武者としての下地作りのためだったのだ。
けれどそれでも良かった。
変わらず京の傍に居られるのなら、それでも良いと。
京が敵の凶刃に襲われるくらいならば、自分がそれを受けようと。
京が俺の立場を知った時、彼はそれを反故しようとした。
俺がそれを望んでいないと勘違いして。
だから告げた。
強くなれと。
お前が強ければ、どんな敵にも倒されない強さがあれば、俺が影としての役目を果たす事はないから。
だから強くなれ。
真っ直ぐな眼で強くなると告げた京の姿は何よりも眩く、純粋だった。
そして俺は「草薙」の姓を賜り、「橘」の姓を捨てた。
正式に草薙京の「影」としての任が降りたのだ。
このままずっと共に居られたら良い。
当主とその影という立場であっても、京が俺を慕い、俺が京を慈しむ事に何の変わりはないのだから。
そう、何も変わる事はないのだと。
ただ信じていた。
八神庵。
あの男が現れるまでは。

 

 

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