4月1日の花:ヒガンザクラ=心の平安
京/2002




その光の中には幼い頃の自分がいた。
屋敷をこっそりと抜け出してきた自分。
彼の手を引いて笑い声を上げながら駆けて行く自分。
少女と一緒になって草花と戯れる自分。
次々と現れては消える光景の中、京は立ち尽くしていた。
妙だと思う。
ここに現れる記憶は全て幼い頃のものだ。
自分と彼が離れ離れになってから今日までの日々の記憶。
少なくとも再会するまでの記憶はここにあっても良いはずだ。
それが一切見つからない。
ここではないのか。
呆然と変わりゆく記憶の映像を眺めていた京は妙な事に気付いた。
庵が、いる。
河原で石を積み上げて遊ぶ幼い自分と庵。
他の記憶は当然庵の視点からのものだ。庵自身が映ることはない。
では、これは。
ふと。
石を積み上げていた庵が、こちらに気付いた。
え?
京が目を見開いた瞬間、河原の光景は消えて幼い庵だけになった。
京に背を向けて駆け出す少年。
待てよ!
後を追う。
この世界に距離など存在しないはずなのに、その背は見る間に遠ざかっていく。
そして完全にその背は闇に紛れて見えなくなった。

 

 

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