4月4日の花:タネツケバナ=燃える
庵、京/2002




どちらからともなく顔を寄せ、口付けた。
遠ざかっていた数日を思い返すように何度も触れるだけの口付けを繰り返す。
京は身を乗り出し、庵の右のこめかみ近くにある、瘡蓋が出来ている傷にも口付けた。
頬に、唇の端に、首筋に、鎖骨にと徐々に口付けは下っていき、やがて右腕に巻かれた包帯に辿り着く。
固く戒められたそこに何度も何度も口付けていると、もう片方の腕で引き寄せられた。
あっという間に体勢を反転させられ、庵が覆い被さってくる。
何度目か分からない口付けは先程までの触れるだけのものとは違い、京の全てを貪るように庵の思う様に蹂躪される。
京の喉から漏れるくぐもった声に触発されたかのように、庵は唇を離すとその喉元へと食らいついた。
びくりと震える四肢。
噛み付いては舐り、己の歯形に沿って舌先を蠢かせばその度に京の四肢は震えた。
シャツの中へと滑り込む手の感触に京は微かな抵抗をする。
その手は、傷を負っているのだからと。
だが庵はそれを無視して京の素肌を撫でる。
吸い付くような肌の上を何度も行き来し、その指先が胸元のそれを掠めると京の身体はじれったそうに震えた。
ゆるゆると押し潰すように撫でればその唇からは湿った声が漏れ、爪弾くようにそれを弄ればその体が白魚のように跳ねた。
たくし上げたシャツを咥えさせ、その赤く熟れた両の実を片方は指で、もう片方は舌で舐ってやればシャツを噛み締めたその奥からくぐもった嬌声が漏れる。
その小さく固い実から舌をずらし、少しずつ腹へと下っていく。
脇腹に口付けると擽ったいのか、京は微かに腰を揺らした。
腰骨のその緩やかなラインに舌を這わせ、歯を立てながら京のスラックスを下着ごと膝下まで引き降ろす。
外気に晒された下肢の中心で与えられる刺激に震え、半ば勃ち上がったそれに手を沿えた庵はその先端に迷うこと無く口付けた。
京の唇から甲高い嬌声が上がり、その体が跳ねた。
庵は先端を何度も唇で挟み込むように擦り、舌先でその窪みを突ついた。
もどかしげに揺れる腰を押さえつけ、根元まで咥え込んでやれば更に上がる悲鳴のような嬌声。
先端が喉に届くほど深く咥え込み、何度も何度も根元から先端を擦り上げる唇と舌。
庵の口内で硬度と質量を増していくそれ。
鈴口から先端の窪みを繰り返し舌先でなぞり、そしてまた深く咥え込む。
鳴くことしか言葉を持たぬ鳥のように、京の唇からは絶え間無く濡れた声が吐息と共に吐き出された。
先端からじわじわと滲み出すカウパー腺液を舌で掬い上げ、そして唇を離す。
身を起こす庵に、どうして止めるのかとその身も起こす京。
庵は微かに唇の端を持ち上げ、その包帯に巻き付かれた腕を見せ付けるように持ち上げた。
そして告げる。
自分でやってみろと。
目を見開く京に、庵は今更のように自分は怪我人だと嘯く。
京は羞恥に頬を染めたが、それでも庵を求める想いの方が勝ったのか、徐にベッドサイドの引き出しからコンドームの包みと小さなチューブを取り出す。
コンドームはシーツの上に放り投げ、チューブだけを手にする。
チューブの中から出てきた透明なジェルを指に絡ませて膝立ち、片手をベッドに付いて体を支えながら己の脚の間へとその手を潜り込ませた。
冷たいジェルの感触に微かに鼻にかかった声が上がり、眉根が寄せられる。
じっと見つめてくる庵の視線から逃れるように目を閉じ、指を門渡りから閉ざされた蕾へと滑らせる。
ジェルで滑った指を突き立てればそこは待ち侘びたようにそれの侵入を緩やかに許す。
京の肌が僅かに粟立った。
ゆるゆるとその指を抜き差すと、やがて体温で暖まったジェルがくぷくぷと湿った音を立て始め、京の羞恥を呷る。
不意に名を呼ばれ、京は閉ざした瞳をそっと開いた。
視界に映し出された庵は何処か楽しそうな色を滲ませている。
口が寂しくはないか?
瞬時にその意図を悟り、京の喉がこくりと鳴った。
庵は胡座をかいていたその脚を解き、ベッドの上に投げ出す。
誘うように緩く開かれたその脚。
京は指を抜くと、猫のようにそろりと庵のその脚の間へと身を滑り込ませた。
身を屈め、ジェルに塗れた指で庵のズボンのファスナーを下ろしていく。
下着の下で僅かに形を成しているそれ。
取り出す僅かな時間ももどかしく、いっそ下着の上から咥えてしまいたい衝動を抑えながらそれを取り出して咥え込んだ。
一瞬詰まる呼吸。それに構わず京は子供が甘い飴を舐るように無我夢中でしゃぶりつく。
舌でそれを愛撫しながら濡れた手を再び己の後ろへと這わせ、その指を肉の内へと沈ませていく。
鼻にかかった声と卑猥な水音が絶え間無く響く。
その中で相変わらず余裕を滲ませる庵。
それが京には少し悔しかった。
けれど庵のそれは確実に京の愛撫によって質量を増している。
その事実が京の情欲を煽り、蕾を弄る指は一層その動きを早める。
だが自分では今一つ奥へと届かない。
焦れたように声を上げると、また名を呼ばれた。
もういい。
その一言に身を起こし、指を抜くと腰を引き寄せられた。
京はシーツの上に投げ出されたままのコンドームを手繰り寄せる。
庵が水を差されたような視線を向けるが、京はそれを無視してその包みを破って中のゴムを取り出した。
ぬめりを帯びているそれを庵の固く勃ち上がったその先端に当ててゆっくりと下ろしていくと、ぴちち、とゴムの音が微かに響いた。
そしてその腰を跨ぎ、庵の勃ち上がったそれに手を添えてその先端を己の蕾に押し当てる。
その熱と感触に、じわりと期待に震える。
そして徐々に腰を落としていけば、増してゆく圧迫感。そしてその痛みに怯むと、それまでただ見ているだけだった庵が徐に京の腰を掴み、一気に貫いた。
一層甲高い悲鳴が室内に響く。
京の四肢が突っ張り、足先がシーツに新たなラインを描いた。
不規則に震える吐息。切なげに顰められた眉根。
繋がったまま庵は京の身体を押し倒す。
その衝撃が下肢へと響き、京の腰が咄嗟に逃げようとする。
その腰を鷲掴んで再び根元まで己の熱をねじ込めば、嬌声が尾を引いて溢れ庵の聴覚を満たす。
柔肉にずっぷりと飲み込まれた自身はその絡み付くような締まりに限界にまで昂ぶっていく。
始めから激しく腰を動かせば京は悲鳴のような嬌声を上げながらその腕を庵の首に絡めてくる。
それに強請られるままに庵は唇を京のそれに合わせ、嬌声すら奪うように舌を絡めた。
息苦しいのか、すぐに逃れようとする京の舌を追い、唇を追って貪る。
口内も柔肉も蕩けるように熱く庵を受け入れる。
薄っぺらなラテックスの膜など溶かしてしまうのではないかと思うほどに京の中は熱い。
否、いっそ溶けてしまえばいい。
直接その襞を抉るように擦ってやりたい。
その最奥へ精液を何度も何度もぶちまけてやりたい。
抜き差しするたびに卑猥な音を立てながらそこから溢れ出てしまうほど。
この口も、肌も、腹の中も自分の唾液と精液塗れにしてやりたい。
衝動に駆られながら強く強く腰を打ちつける。
力任せに掴んだ京の腰にはもしかしたら指の形をした痣が出来てしまうかもしれない。
それも良い。京の体に自分を刻みつけるようだ。
京の反り返った喉にも庵が先ほどつけた歯形が残っている。
それすら欲を煽る一欠けらとなり、庵は舌舐めずるように己の唇をちろりと舐めた。
京が限界を訴える。庵もそれは同じだった。
庵は獣のような声を僅かに上げて一層腰の動きを強くする。
京は壊れたスピーカーのように尾を引く嬌声を引っ切り無しに上げ、やがてびくりとその体を痙攣させて白濁とした熱を己の腹の上に撒き散らした。
射精と同時に京の柔肉がきゅぅっと締まり、庵もまた低く呻いて熱を吐き出した。
静けさを取り戻した室内に二つの荒い呼吸音が響く。
覆い被さっている庵を改めて抱きしめると、その視線がかち合った。
自然と合わさる唇。
その唇がそっと離れると京は微笑み、もう一度その唇を重ねた。

 

 

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