4月7日の花:クローブ=神聖 クリス/97 |
長い間、僕らは一つだった。 八俣遠呂智と呼ばれる一つの存在だった。 けれど僕らの力は大きすぎて、天照が分散させる事を提案した。 そこで遠呂智は自分の八つの首の数だけ力を分けた。 八つの首はそれぞれ風や土、木や水などの力を持って形を成した。 僕は炎の力を。 当然僕らに名前があるわけじゃない。 精々、壱の首とか弐の首とか、そんな風にお互いを呼んでいた。 遠呂智自身は遠呂智自身として存在していて、けれど僕らの前に姿を現す事は余り無かった。 遠呂智はいつも高志の岩谷奥深くに篭っていて、呼ばれない限り僕らはそこへは行かなかった。 僕らの力が安定してきた頃、御座に呼ばれた。 遠呂智の両下座に控える二神。 彼らの纏う気には覚えがあった。 遠呂智の力を一番始めに具現化させた剣と、天照から授かった勾玉。 「天叢雲命だ」 「月満八尺瓊命だ」 二神はそれだけ名乗った。 二人とも同じ声で、でも顔立ちは違ってて。 純白の狩衣に身を包んだ剣は、その無表情さが不似合いな、あどけなさを残す青年だった。 濃灰色の狩衣に身を包んだ勾玉は、冷たさすら孕んだ無感動さを隠すように、長めの前髪が顔の片側を覆っていた。 大きな瞳と切れ長の眼。 二対の漆黒。 要するに、彼らが外と遠呂智の仲介をする、そういうことらしい。 披露目が終われば用無しと言わんばかりに遠呂智は二神と共に奥へ引っ込んでしまった。 遠呂智は余り僕らに関心を示さない。 人間が自分の手足に話し掛けたりしないのと同じだ。 そこに在るのが当たり前という風に僕らを見る。 僕らはあくまで個々ではなく、遠呂智の一部だった。 |