4月9日の花:チューリップ(黄)=望みなき恋
クリス/97




ほかげ、とあなたが僕を呼ぶ。
あなたの唇に乗せただけでその名前がとても暖かく感じる。
僕らはあなたに惹かれるように出来ている。
遠呂智があなたを愛しているから。
だから僕もそう思うのかもしれない。
これは僕自身の感情ではないのかもしれない。
それでも良かった。
あなたが僕を呼ぶ。
はにかみながら僕を呼ぶ。
それによって僕が暖かな気持ちになるのは確かだから。
だから、違うんだ。違うんだよ。
あなたが悪いんじゃない。
炎を失った僕と、炎を得たあなた。
僕を見たらあなたはすぐにそれを察してしまう。
あなたと勾玉が授かった炎は、元は僕のものだったのだと。
僕の炎はあなたと勾玉が分け合って、僕には何も残らなかったのだと。
それを知ったら、きっとあなたは泣きそうな目で僕を見るだろう。
不興を買ってでも遠呂智に炎を返そうとするだろう。
それが嫌だったんだ。
あなたに僕の力が、炎が宿った事を嘆いているわけじゃないんだ。
寧ろ僕の炎があなたに宿る。それは嬉しかった。
ただ、その代わりに僕自身はその炎を失った。
遠呂智の受け皿としか役を持たなくなってしまった。
ほかげと、火の影とせっかくあなたがつけてくれたこの名前。
それを守れなかったような気がして。
そんな自分が悔しくて。
だから会いたくなかったんだ。
けれど、ほかげ、と慈しみを込めて僕を呼ぶ。
その姿をもっと見ていたかった。
いつかまた、その暖かな手にこの手を重ねて歩きたかった。
もう叶う事はないけれど。

 

 

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