4月12日の花:レンギョウ=達せられた希望
庵、京/2002




お袋に庵の記憶が戻った事と、これからみづきたちを迎えに行く旨を連絡すると、一言、よかったわね、と電話の向こうで笑っていた。
「なあ、庵、車買おうぜ」
駅へ向かう途中、そう提案してみた。
「お前免許持ってるだろ?エルグラントとかでっけーのが良いよな」
「それは構わないが…」
「ん?」
「いや…」
言葉を濁した庵の意を察した京は「ばっかでえ」と笑う。
「こういう時のための貯金だろ?」
先日、静から渡された京名義の通帳。
勿論それは京自身の収入であり、彼の好きにして良い金ではあるのだが。
「……」
沈黙してしまった庵に京は小首を傾げ、やがてピンと来たらしくにやにやとした笑みを浮かべて庵の顔を覗き込んだ。
「もしかしてさ、俺に『買ってもらう』感じがして嫌だとか?」
「………」
図星らしい。
「いーおりんてばっ!もう!」
女の子のように胸元で手を組み、おどけてみせれば庵の表情は一層不機嫌そうになり、それがまた京の笑みを深くする。
「じゃあこうしようぜ。車の金は俺が出す代わりに向こう三年間のガソリン代は庵が出す。プラス運転手」
な?と京は笑う。
庵は尚も納得行かないという顔をしていたが、やがて諦めたらしく溜め息を落とした。
「よっし、商談成立〜!」
丁度駅に辿り着き、京は上機嫌に切符を買いに行く。
その背中を見ながら何気なく胸ポケットに手をやった庵はふとその存在を思い出した。
「庵、ほら」
戻ってきた京に差し出された切符を受け取りながら聞いてみた。
「そういえば京、俺の携帯電話はどうなった」
すると京は何故か驚いたように目を丸くし、庵を見ている。
「京?」
訝しんだ庵の声に、漸く京は我に返った。
「あ、ああ、携帯ね。部屋にあるけどイカレてたぜ」
「そうか」
すると京は何故か破顔し、へらりと笑う。
「ほら、やっぱりな」
「何がだ?」
「何でもねえよ」
さっぱり分からない庵を尻目に、一人納得顔の京は嬉しそうに笑った。

 

 

戻る