4月13日の花:ムスカリ=黙っていても通じる私の心
メロ、ホキ/2002




静は仕事の日でも昼には帰宅し、夫を始めとする男どもの昼食を作ってまた出勤していく。そして急患などが無い限りは定時に帰宅して夕食の準備を始める。
その静が居ない間、男どもが何をしているかというと。
紫舟は今の所放浪の予定はないのか、駅前にオヤジ狩り狩りをしに行くか家でごろごろとしている。
そして子供三人組みといえば。
「あ〜っ!また負けたー!!」
「へっへーん!十連勝達成!」
「みーきもやるー!」
不健康にも室内でテレビゲームに熱中していた。
ゲーム機は京がこの家に置いていったプレステだ。(マンションの方にはPS2がある)
そして何をやっているかといえば格ゲー。
更にはこの後、ゲーム内で見た技を実際に試すと思われる。
「みーきは俺と一緒にやろうなー。ほらおいでー」
「けーたのおひざ〜!」
「くっそー!今度こそ!!」
紫舟は騒がしい三人を背に縁側でのんびり新聞を読んでいたのだが、不意にその声が止み、紙面から視線を上げた。
「どうした」
振り返った先には、虚ろな目でテレビの画面を眺めている三人の姿。
ゲームの音楽だけが空しく鳴り響いている。
「…ふぇ…」
紫舟が腰を浮かせた途端、それが引き金だったかのようにみづきの顔がくしゃりと歪み、突然泣き始めた。
「やだ、やだやだやだぁあ」
「み、みづき、どうしたんじゃ」
突然駄々を捏ね出したみづきに紫舟はどうして良いのかわからず三人の傍らでおろおろとしている。
「…あー…びっくりした」
「ぅーおー…」
その間に京大と京也も我に返ったらしく、頭痛でもするのか、あーだのうーだの呻きながら頭を押さえた。
「説明せい、わけわからんぞ」
うろたえながらもみづきを膝に乗せてあやす紫舟に、二人はあーと気の抜けた応えを返す。
「京がキレた」
「うん、ものの見事にぶちっと」
「分かり易く言わんか」
みづきには甘い紫舟だったが京大と京也にはほぼ京に対する対応と変わらない。
「だから、京がプッツンして溜めに溜めたストレスっつーか悲しみとか憤りとかもどかしさとかそういうのがぐわっと塊になって脳天直撃したっつーか」
「ほら俺ら京のクローンじゃん?どうも見えない何かで繋がってるらしくってさぁ。京の強い感情とかに結構左右されるわけよ」
いやあ久々に凄えのが来た、と彼らは米神を親指で揉む。
「みーきも突然どかーんて来てびっくりしたんだよな」
京大がみづきを覗き込むと、泣き止みかけてきたみづきがこくこくと肯いた。
つーか、と京也が京大を見る。
「今のはヒステリーっぽかったよな」
「あー、そうそう。そんなかんじ」
じゃあ今ごろ大喧嘩だあの二人、と京大と京也は笑い出す。
「今マンションに帰ったら部屋ん中しっちゃかめっちゃかだぜきっと!」
「いいや寧ろ部屋自体なくなってんじゃねえの?!」
「今ごろ消防署に火災発生の連絡入ってたりして!!」
「出火原因は何だね京也隊員!!」
「痴情の縺れです京大隊長!!」
「「ギャー!!恥ずかしすぎるー!!!」」
イヤー!!と身悶えるアホ二人。
彼らの中に「心配」の文字はないという事はよく分かった。
「庵!」
「京!」
徐に二人はがしっと手に手を取り合い、見詰め合う。
「いおりん!どうしてアタシのコト忘れちゃったの?!イヤイヤ!」
「バカだなぁ、何を忘れてもきょんきょんの事だけは忘れないよ!」
「いおりん!」
「きょんきょん!!」
ギャーー!!!ッハッハッハーー!!
ヒーッヒッヒッヒッヒッヒ!!!
最早笑い声ではなく悲鳴というべきだろう。否、奇声と言うべきか。
アホ二人は腹を抱え、もしくは何度も畳を叩きながら笑い転げている。
「……さて」
紫舟はみづきを抱えて立ち上がった。
アホ二人は放置する事にしたらしい。
「みづきは羊羹は好きじゃったかのぅ」
「すきぃ」
涙も乾かぬ内からすっかり泣いていた事を忘れたらしいみづきが喜びを表すように両手を挙げた。

 

 

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