11月2日の花:ルピナス=母性愛
京/99





ネスツを脱出した京がまずやった事。
追い剥ぎ。
「ゴメンな〜交通費くらいは残しておくからさ」
裏路地で屯していた不良数人を伸した京は服と幾ばかりかの紙幣を手にその場を立ち去る。
「あ」
と思いきや。
「靴も貰ってこ」
くるっと引き返して自分と同じくらいのサイズの男から靴を拝借。
「これでよし。文句はネスツにしてくれ」
聞こえちゃいないだろうが。
京は今度こそその場を離れた。
「…あちゃ」
ある廃ビルへと近付くに連れて耳に痛い声が聞こえてくる。
「おい!」
音源の間近まで来るとその声は超音波に近い。
京は耳を手で塞ぎながらそこへと駆け込んだ。
すると途端に声は止み、音源である物体がじたばたと手足を動かした。
「…あうっ」
そこには涙でぐしゃぐしゃになった赤子がロープで柱に括り付けられていた。
「あーうーぅ!」
「ああもうわかったわかった」
京は足早に近付くとロープを解いて赤子に自由を与えた。
「うー」
すると赤子はまるで逃さないというようにしっかと京のぼろぼろになった衣を掴んだ。
「悪かったって。お前連れてカツアゲったら目立つだろうが」
京は捕まれたそこをそのままにそれを脱ぎ捨て、奪って来た服を纏う。
「えーっと…」
くすねた紙幣を数えつつこの限られた金で何を買うべきか思案する。
「まずは食料とお前のミルクと哺乳便と…」
つらつらと必要な物を口にしていきながらやがて「オイ」と傍らの赤ん坊を見下ろす。
「食料以外全部お前のモンじゃねえか」
赤ん坊に文句を言っても仕方が無い。
あの時見捨てる事が出来なかった自分が悪いのだから。
「あーったく、仕方ねえなあ…」
がしがしと掻き混ぜ、京は立ち上った。
「あーぅ!」
「わかってら、お前も連れて行くって」
今度は縛ったりしねえっつの。
縋るような声を上げる赤子を片手で抱き上げ、京は廃ビルを後にした。

 

 

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