11月3日の花:スプレー菊=気持ちの探り合い
京/99




どうにかして知り合いと連絡を取るなりしなくてはならない。
いつまでもカツアゲ人生を突き進むわけには行かない。
そして何より、愛する(わけではないが)我が子(というかクローン)の為に。
「ガキの頃の俺ってこんなに横着だったっけ…」
そして京はその愛する(以下略)相手に梃子摺っていた。
「こら!それは玩具じゃねえっつーの!」
ベビーバンドを振り回す赤子からそれを取上げ、代わりにゴム製のアヒルを押し付ける。
「一番高価なモンなんだから大事にしやがれ!」
まさか自分が子育てをする日がこんなに早くやってくるなどと考えもしなかった京に当然育児知識がある筈も無く、先程買い物帰りに立ち寄った本屋で延々と育児書を読み続ける羽目となった。
「風呂どうすっかな…」
胡座をかき、腕を組んで唸り声を上げる。
京自身は自分が我慢すれば済むが、この目の前の赤ん坊はそうは行かないだろう。
何せ哺乳瓶を洗うだけでは事足らず消毒しろとまで当たり前の様に明記されているイキモノだ。
川の水を煮沸したものでは駄目だろうか、と唸っていると当の赤子が構えとばかりに京の脚を叩いた。
「お前の名前も決めねえとな」
ひょいと抱き上げて胡座かいた上にちょこんと座らせる。
声を上げながら小さな手を京の頬に伸ばしてはぺちぺち叩くのに文句を垂れつつ京は唸り声を上げる。
「俺のクローンだし…京…京太、京介、京平、京次郎…」
うーん、と唸りながら京はそのまま仰向けに倒れ込む。
「…あ」
反転した視界に映ったのは、割れた窓ガラスから覗く、白く輝く満月。
「きゃぁ〜」
声を上げて赤子が京の腹に登り、胸元までもぞもぞと這う。
「…満月」
京は視線を自分の胸元に乗っている赤子とアップで視線を合わせ、告げた。
「お前の名前は…みづきだ」
赤子が一層高い声を上げた。

 

 

戻る