11月5日の花:サザンカ=譲る心
京/99




金が無い。それはもうどうしようもない現実で。
仕方ない、その辺の悪い子チャンから恵んでもらおう。
京はナースに治療費を聞き、金を取りに家に戻ると告げて何度も謝りながら診療所を出た。
「……」
そして出たすぐそこで京を待っていたのは、思いも寄らぬ人物だった。
「いお…」
「幾らだ」
京が問われた意味を理解できずに首を傾げると、赤い髪の男はひょいと顎先で診療所を示した。
「あ、えと…」
ナースから聞いた金額を告げると、彼はポケットから何枚かの$紙幣を取り出して無造作に手渡した。
「あ…サンキュ…」
ぽかんとしたまま京は回れ右をして診療所内へと戻っていく。
そしてまたすぐに出てくると幾ばかの硬貨を男に差し出した。
「…なんで、ここに居るんだよ」
受け取った硬貨をポケットに落とすその手元へと視線を落とすと、耳に馴染んだ低音が響く。
「貴様を探していたら、ここへ駆け込む姿が見えた」
「…そっか…」
そこで言葉を失い、京の視線は彷徨い、腕の中のみづきに辿り着いて漸くはっとした。
「こいつ、寝かせないと…」
「俺の部屋に来い」
「でも…ミルクとか…」
ならば取りに行けば良い、と告げる男に京は視線をさ迷わせる。
この男にたった数日とはいえホームレス生活をしていた事実を見られるのには気が引ける。
だが、みづきをあの廃ビルよりちゃんとした部屋で寝かせた方が良い事はわかっている。
自分のプライドか、みづきか。
「…こっちだ」
そんなもの、今の自分には火を見るより明らかだった。

 

 

戻る