11月12日の花:ガーベラ(赤)=前進
庵京/99




夏も緩やかに終わりを告げ、秋の風へと変わりつつある頃。
成田空港に目立つ三人組が降り立った。
「いつまでも不貞腐れてんじゃねえよ」
幾分か童顔の所為か、幼さと凛々しさが見事に調和した黒髪の青年が傍らの男を呆れたように見上げた。
「…別に」
それに応えたのは黒髪の青年より頭一つ背の高い、髪を真っ赤に染めた男だった。
体格は一目で何か格闘技をやっていると分かる筋肉の付き具合。ワンポイントの刺繍すらない白のシャツに黒のコットンパンツ、首には同じく黒のチョーカーが巻かれている。
更には長めの前髪がその冷たいまでの整った顔に影を落とし、出張帰りのサラリーマンなどは思わず遠巻きに逃げるように歩いていく。
だが、それでも辛うじて好奇以上の視線を集めないのは、男が片手で軽々と抱えている幼子の姿だろう。
「おとーしゃ、あれなあに?」
男の腕の上でとにかく彼方此方を指差しては「あれなあに?」を繰り返す、恐らく三歳前後だろう幼子。
「あれは?」
延々と続く問い掛けに、男は意外にも逐一答えてやっている。呼びかけからして彼が父親らしいのだが、どちらかといえば傍らの青年の方が子供と血が繋がっていそうな顔立ちだ。
「あーやっぱ日本は良いぜ。日本語メインだしな」
どこか海外旅行にでも行って来たのだろう、青年は嬉しそうに言う。
「貴様の英語は応用が利かないからな」
「仕方ねえだろ、生活に関係ない英語は使わねえんだから」
「その割にスラングでの罵詈雑言は眼を見張るものがある」
「う…」
この異様に目立つ三人組は多くの人達の視線を集めながら空港を去っていった。
その多くの中に違った色をした視線が混じっている事に彼らは気付いただろうか。
「はい、間違いなく草薙京と八神庵です。あと、子供が一緒です。…分かりません。三歳前後の男児かと思われます…はい…はい、引き続き任務を続行します」
上司か家族に連絡を入れているような、一見ただのサラリーマンにしか見えない男。
そしてもう一方では。
「…見つけた」
「オリジナルK」
一卵性双生児なのだろうか、全く同じ造形の顔立ちをした青年が二人、小さく呟いた。
その二人の顔立ちは、先程の黒髪の青年ともそっくりだと気付いた者は、この場に何人居ただろうか。
やがて二人の姿も人込みに紛れ、消えていった。

 

 

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