11月13日の花:ストレプトカーパス(赤)=主張 庵京/99 |
京と庵は一週間という短い期間ではあるが日本へ帰国していた。 名目上それは家族旅行とされていた。というよりは京が一人で家族旅行だと言い張っているのだが。 勿論庵も京も男であって、戸籍上の繋がりは精々遠い遠い親戚程度だ。 そして二人の間で寝息をたてているみづきも京のクローンであって戸籍自体存在しない。 だが、庵と京はお互いを認め合っていたし、みづきも自分達の子供として育てている。 ならばそれを家族と呼ぶ事に何の躊躇いがあるのだろう。 少なくとも京はそう思っていたし、庵も京の主張を受け入れていた。 そしてその家族三人がこうやって出掛ける(しかも国境、海を越えている!)のだからそれは家族旅行だと京は主張する。 だが、この主張は庵には不満を齎すものだった。 別にフランスやイギリスの観光地に行きたかったわけではない。寧ろそんな人込みは出来れば避けて通りたい。 だが、日本よりはマシかもしれないと庵は思う。 何が悲しくて生まれて二十年の殆どを過ごした日本に、しかも東京の自宅マンションに「旅行」せねばならないのか。 「いいじゃん。ホテル代浮くし着替えも持ってこなくて済んだし」 「だが、空港から尾行されている」 マンションへと向かう途中のタクシーの中、庵はそう告げた。 「振り向くな。バックミラーで見ろ。そう、斜め後ろのステップワゴンだ」 「うわダッサ!ステップワゴンで尾行!まだラシーンの方が笑えるっつーの」 「無粋な輩だ」 「でもさ、どっちにしろ俺らのマンションなんざ調べりゃすぐ分かるし。堂々としてりゃ良いんじゃねえの?」 不穏な会話に運転手はちらちらとミラー越しに彼らを見ているが、彼らは気に留めた様子も無く会話を続ける。 「だがみづきが居る」 「んー、じゃあその辺におびき寄せてぶちのめすか?」 「弱者を痛めつける行為は好かん」 「じゃあどうすんだよ。あ、おっちゃん、悪いけどやっぱ適当にその辺一周してくんない?」 運転手はすぐにでもこの三人を下ろしたい衝動に駆られながら、新宿の街並みへとタクシーを走らせた。 |