11月15日の花:シコンノボタン=平静 庵京、メロ、ホキ/99 |
「ありがとうございましたー」 店員の声を背に三人はファミレスを後にした。 「夕飯は和食にしようぜ」 昼食を済ませたばかりだというのに既に夕食の話をしだす京。 「ご飯と味噌汁と焼き魚!あと漬物!」 「ならば買い出しに行かねばならんな」 京を探す為に日本を出る際、庵は食料と名のつくものは殆ど処分してしまっている。精々、調味料が多少残っている程度だ。 「あー、ならどっかで買ってくか」 辺りを見廻し、丁度視界に入った某有名デパートへとのんびりと向かう。 きょろきょろと忙しないみづきの手を引きながら京はふと何かを感じて辺りを見廻した。 「どうした」 「ん〜…なんか、一瞬ざわっとした気が…みづき?」 ふと視線を落とすと、先程まできょろきょろとしていたみづきがある一点をじっと見ている。 「何かあるのか?」 だが、みづきはすぐに視線を外して再びきょろきょろしだしてしまう。 「…良いのか?」 「まあその内嫌でも分かるだろうし」 そう肩を竦め、京はみづきと共にデパートの中へと向かう。 「みづき」 店内の人込みに、庵はみづきへと腕を伸ばしてその小さな体を抱き上げた。 「…何だ?」 それをにやにやとしながら見ている京に庵が訝しげな視線を向ける。 「いや、随分扱いに馴れて来たなーと思ってよ」 「……」 それに何も答えられずに居ると、京は小さく笑いながら食料品売り場へと向かった。 「これとこれと…あとはこれも…なあ、米って五キロで良いよな?味噌は…これで良いや。壷漬としば漬、どっちが良いと思う?あ、でもこっちの浅漬けの方が安いじゃん。あーでもこっちも捨て難い…あ、俺の分も。うん、キリン。うわ、知らねえ内にこんなに種類出てんのかよ。じゃあこれ。あとツマミ。チー鱈とジャーキーが良い。そう、そっちのメーカー。あ、そういやみづきの歯ブラシとかも買わねえと。みづき、いちご味とメロン味、どっちが良い?」 あっという間にカートに食料品の山が出来上る。それをがらがらと引きながら京は本日のメインイベントである魚売り場へと向かった。 「アジも捨て難いしサバも捨て難い…鮎は養殖モンだから却下…うーん」 「京」 何かに気付いたように庵が声を上げたが、だが京は構わず悩み続ける。そして徐に振り返り、ちょいちょい、と手招きをした。 その手は、庵とみづきではなく、少し離れた所に居た二人の青年に向けてのものだった。 二人の青年の姿は京と酷似していて、三人並べば誰もが三つ子だと思うだろう。 「……」 二人は二言三言ひそひそと言葉を交わし、そしてゆっくりとこちらへと近付いてくる。 「聞きたい事がある」 京は真剣な表情でその二人を見た。 「アジとサバと虹鱒、どれが良いと思う?」 「「「…………」」」 京と瓜二つの二人はぽかんとし、庵は呆れたように溜息を吐いた。 「どれが良いと思う?」 繰り返して問う京に、二人は途惑ったように顔を見合わせる。 「……虹鱒」 「よし、じゃあ虹鱒の塩焼きだ」 一人がそう呟き、京は満足げに頷いて虹鱒のパックをカートに積み上げる様にして置いた。 合計五匹。 「お前ら、夕飯食わせてやるから荷物運ぶの手伝え」 そう言い放って京はカートを押してレジへと向かってしまう。庵はもう一つ溜息を落とし、途惑っている二人へと視線を向けた。 「…どうせ行く当てなどないのだろう?」 そして京の後を追う庵の背を見詰め、二人は再び顔を見合わせると小さく頷いて彼らの後を追った。 |