11月19日の花:ハラン=強さ
山崎京/97




不覚にも山崎に拉致され、どれだけの時が過ぎたのだろう。
恐らくまだ半日経ったか経たないか程度だろう。
それでも京には途方も無いほどの時の流れに感じた。
あれから何度山崎を受け入れたのだろう。
精液で汚れた体を清める事も許されず、京はただベッドに寝転がっているしかない。
「……」
京はゆっくりと身を起こし、当たりの様子を窺う。
室内に山崎の気配は無い。食事でも摂りに行ったのだろうか。
京は鎖を何とか外せないかと引いたり捻ったりしてみたが、己の手首が傷付くだけで頑丈な鎖は全く外れる気配を見せない。
「やれるか…?」
京が両手首の手錠を繋ぐ鎖に意識を集中させると、そこに小さな炎が浮かび上がる。
炎がそこに凝縮していくイメージを脳裏に浮かべ、焦るな、と己に言い聞かせる。
やがて銀色の鎖が赤く溶け始め、軽く両腕を広げただけでそれは千切れた。
「よしっ!」
出来れば両手首の輪も外したいのだが、今はそれ所ではない。
京は床に捨てられたままのズボンを履き、そして素肌の上に短ランを羽織った。
服としての役目を失ってしまったシャツで顔や体にこびり付いている精液を乱暴に擦り落としながら、窓一つ無いその室内を足音を殺してドアまで辿り着く。
「……」
耳をあて、外の様子を窺うが、気配はない。
手にしていたシャツを放り、そっと鍵を外してスチール製の扉を開けて廊下に出る。
そしておんぼろなエレベーターの前に行き、はっとして非常階段へと向かった。
万が一エレベーターで山崎と鉢合わせでもしたら逃げる事は困難だ。
京は急いで、それでもできるだけ足音を殺して階段を駆け降りる。
人気の無いロビーを駆け抜け、京はその建物からの脱出に成功した。
「ヘイ!」
通り掛かったおんぼろタクシーを止め、自分が宿泊しているホテルを告げる。
そして車が走り出し、逃げ出して来たその建物が完全に見えなくなって漸く京は体の力を抜いた。
「…あのキチガイ野郎…ぜってえ病院送りにしてやる…!」
見覚えのあるホテルが見えてくるとそこでタクシーを降り、京は短ランのボタンを閉める。
くん、と自分の腕を嗅いで京は顔を顰めた。
「…精液臭ぇ…」
両手に手錠の残骸をぶら下げたままではフロントマンに訝しがられるだろう。
けれど、今はとにかく部屋に戻ってシャワーを浴びたかった。

 

 

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