11月23日の花:メギ=はげしい気性
庵京、山崎/97




シングル戦三位決定戦が行なわれる前夜、京の元に真吾が病院に担ぎ込まれたという知らせが入った。
「庵の野郎…何考えてやがる…!」
ちづると共に紅丸の車に乗り込みながら京は舌打ちをした。
ここ数日、彼は殆どの時間をホテルの外で過ごしている様だった。
庵の性格を知っている京は然して気にも留めず、自分たちの試合に集中していたのだが。
がんっ!!
「?!」
不意に頭上から強い衝撃が走った。
「何だ?!」
紅丸が咄嗟に急ブレーキを踏む。
すると頭上のそれが強いGに吹き飛ばされ、だがボンネットを蹴って体勢を立て直し、車の前に降り立った。
「げっ」
京が嫌そうな声を上げる。
「山崎!」
ちづるが車を降りるなりそれの名を呼んだ。
「よお」
山崎が邪悪な笑みを貼り付けてゆらりと立ち上る。
「さっきの陸橋から飛び降りたのか…?!」
天井が多いにへこんだ車を路肩に寄せてやってきた紅丸が勘弁してくれ、と肩を竦めた。
「俺ら急いでんだけど」
京が両手をポケットに突っ込んだままそう言い放つ。山崎は京と視線が合うなり喉の奥を鳴らして引き攣った笑いを洩らした。
「てめえの都合なんざ知るかよ。今度こそ逃さねえぞ、草薙ぃ…!」
「しつこい男は嫌われるんだぜ?」
お互いに前へと踏み出し、少しずつ近付いていく。
「てめえは俺のモンだ!犬の首輪ァ付けて飼い殺してやらあ!」
「ハン!やれるもんならやってみやがれ!」
京が足を止めても山崎の歩みは止まらない。
ひたり、とその歩みが止まると同時に山崎の右腕が動いた。
「おっと」
首筋に向かって放たれたそれを軽く身を反らして避け、とん、と軽く地を蹴ってその間合いを詰めた。
「あんたにゃこの俺サマは勿体無さ過ぎるんだよ」
体が触れ合うぎりぎりの所で京は山崎を見上げて笑う。
「『俺に惚れたらヤケドするぜ』ってヤツ?」
「!」
轟と音と共に京の足元から炎が噴き出し、山崎は咄嗟にその場を飛び退いた。
だが、それと同時に背後から殺気を感じた山崎が地に足が付くと同時に左へと飛ぶと、眼前を鮮やかな青紫の炎が過ぎってゆく。
「この野郎…!」
何時の間にそこに現れたのか、八神庵が軽い舌打ちをして振り上げた拳を下ろした。
「楽に死なせてやったものを…」
「クソガキがぁ…!」
赤と青、二つの炎をガードした山崎の袖は焦げ、その下に覗く山崎の太い腕も僅かに火傷を負っている。
「山崎サンよ、悪ィんだけどさァ」
傍らに立つ庵の肩に腕を乗せ、寄り掛りながら京は艶やかに笑った。
「あんたじゃ燃えねえ」
庵の唇にも、酷薄な笑みが浮かんだ。

 

 

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