11月25日の花:フユサンゴ=告白
庵京、メロ、ホキ/99




「へー、よく出来てんなー」
京は手にしたパスポートを眺め、感心した声を上げた。
その数は三つ。全てが本来なら存在する筈も無いパスポートだ。
「裏で買ったみづきの偽造パスポートもよく出来てたけど、何となくこっちの方がバレなさそうだよな。軍認定品だし」
そしてその中の一つを開き、ばっと頭上に掲げた。
「くさなぎけいたくーん」
「……」
メロが両手を出してじーっと京を見詰める。
「呼ばれたら返事!」
「…はい」
蚊の鳴くような声で返事を返すメロに京は手にしていたパスポートを彼に向かって放り投げた。
「もっと元気良く!次!」
そしてもう一冊のパスポートを掲げ、
「続きまして、きょうやくーん」
「はい!俺の俺の!!」
「あーはいはい!やるから暴れるなっての!」
身を乗り出して奪おうとするホキに京がパスポートを渡す。
「おー!本当に草薙京也って書いてある!お前は?おおー!ちゃんと草薙京大ってなってるじゃん!すっげー!」
名前を貰えたのが嬉しいのか、ホキ改め京也ははしゃぎっぱなしだ。
「……」
それに引き換え、メロ改め京大は浮かれるわけでもなくただじっと自分のパスポートを見ている。
「何だよ、写真写りでも悪かったのか?」
「あ、いや…」
京の問い掛けに彼ははっとしたように視線を上げた。
「俺、ちゃんとした名前、貰える日が来るなんて思っても見なかったから…」
零れ落ちるような京大の応えに、京也の表情が嬉々としたものから苦笑へと変わる。
「俺らにあるのは、ナンバーだけだったしな。…オリジナルが付けてくれたのも魚の名前だしぃ?」
にやっとした笑いと共に視線が向けられ、京は「悪かったな」と唇を尖らせてそっぽを向いた。
「でも、嬉しかった。ナンバー以外で呼ばれたの、はじめてだったから」
「……ふーん」
明らかに照れ隠しと分かる気の無い振りをした京の応えに、二人は楽しげな笑みを洩らした。

 

 

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