11月26日の花:デンドロビウム=わがままな美人
紅丸、京/96




その夏、三度目のKOFが開催されようとしていた。
当然の様に届いた招待状。
紅丸はそれを眺めながら京と大門の二人と連絡を取らなければ、と思っていた。
そんな時に入った一本の電話。
「大門!久し振りだな!ちょうど電話しようと思ってたんだぜ」
噂をすればなんとやら。電話の主は大門だった。
だが、言葉を交わす内に紅丸の表情から明るさが消えていく。
「あーそっか…気にするなよ。それより、その人に代わってビシバシ鍛えてやれよ。ああ、また連絡するよ。じゃあ」
受話器を置くなり紅丸は盛大な溜息を落とした。
「参ったな…」
大門が参加を辞退するというのだ。
どうやら柔道の恩師が倒れ、容体が良くなるまでその老人が教えている道場の面倒を頼まれたらしい。
大門の性格からしてそれを断る事など到底出来ないだろう。
第一、所詮KOFはちょっとしたお祭りなのだ。どちらが大切かなど考えるまでもない。
「あと一人、どうするか…」
再び受話器を取り、いい加減指が覚えてしまった番号を押して相手に繋がるのを待つ。
「おはようございます、二階堂ですが…え、あいつ、またアメリカに行ってるんですか?はい、あ、今メモするんで…はいどうぞ。……それで、何時頃からアメリカに?…ああ、アイツ梅雨は嫌いですしね。ええ、ありがとうございます。それでは」
そして受話器を下ろし、三度持ち上げてメモした番号を押した。
「ハロー?そちらにキョウ・クサナギがいると聞いたのですが…ええ、二階堂と申します。はい、すみません。………よお、久し振り。招待状、届いたか?ああ、その事なんだけど、大門がちょっと出れないんだよ。まあ詳しい事は今度話すとして、お前、どうする?まあ、そう来るとは思ったけどさ、もう一人のメンバーどうするんだよ。え?ああ…」
ちょっと待ってろ、と電話の向こうの相手が保留ボタンを押してしまい、紅丸は電子音の第九を暫く聴かされた。
「…いや、どうしたんだ?…え?誰がだって?は?誰だよそれ。…あーあ、電話に出た男?ってその人、牧師って言ってなかった?」
どうやら彼が居候している家の家主が三人目を買って出たというのだ。
一度だけ、その姿を見た事がある。
去年の大会が終わった時、京を迎えに来た三十代半ばくらいの男。
柔らかな物腰のわりにどこか隙の無い雰囲気を纏い、その眼鏡すら感情を隠す為の壁の様だと感じさせた。
牧師のわりに体格が良いと思ってはいたが、まさか招待状が来るほどの実力があったとは。
「あー違うって。そうじゃなくて…わかったわかった」
どうやら電話の向こうの相手は紅丸の沈黙を三人目への不服と取ったようだ。紅丸は電話の向こうでぶーたれている相手を宥める。
「まあ、京ちゃんがそう言うなら良いけど…え、一度こっちに来るの?ああうん、ならその時にまた…うん、じゃあ、またね」
受話器を下ろした紅丸は腕を組んでじっと電話機を見下ろした。
「…京の奴、ワガママ王子っぷりに磨きが掛かってるんじゃないか?」
電話の向こうの、記憶にあるより子供っぽい喋り方になっていた相手を思い浮かべ、溜息を吐いた。
「あの調子じゃ、また出席日数が足らずに留年だな…」

 

 

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