11月27日の花:シーマニア=未来への希望
庵京/99




「最近さ、そればっかり嵌めてるよな」
庵の手元に視線を落とした京が唐突にそう告げた。
庵の右手の薬指には大抵何かしらの指輪がその存在を主張している。
大抵はシルバーのごつい指輪を付けているのだが、ここ数日庵が身に付けている指輪は至ってシンプルなもので、宝石が付いているわけでもなく、これといった装飾がある訳でも無い。
「なんか結婚指輪みてえ」
庵の右手を取り、その銀環を指先で突付くと「欲しいのか」という声が頭上に降り注いだ。
「んー……んー?うーん…」
指に嵌まったままのそれを弄りながら京は曖昧な応えを返す。
すると京の手の中から庵の右手が失せ、その手は何やらごそごそとズボンのポケットを探り出した。
「?」
京が小首を傾げていると、庵はポケットから何かを取り出して京に手を出すように告げる。
「何だよ?」
両手を広げて彼へと差し出すと、そうじゃない、と左手を取られる。
「へ?」
京の左手の薬指にするりと指輪が嵌められた。
庵の物と同じくシンプルな銀の指輪。
「……オイ」
己の指に嵌められた指輪から庵へと視線を向ける。
「どーゆーこった、コレは」
ジト目で睨らみ上げては見るものの、その頬は僅かに紅潮しており、睨みの威力は無に等しい。
「そういう事だ」
しれっとして告げる庵に、京の顔はますます赤味を増していく。
「しんっじらんねー。超ハズカシー。お前ってそういうキャラじゃねえだろ」
明らかに照れ隠しと分かるボヤキ。
「要らんのなら返せ」
それと分かっていて敢えてそう言ってみる。
「バッカ、誰が要らねえっつったよ」
案の定、京は慌てて右手で左手を隠してしまう。
「……何かさ…わかった、気がする…」
「何がだ」
自分の指で鈍い光を放つそれをじぃっと見詰めながら京が呟くように言った。
「なんつーか、こーゆーのがあると…なんつーか…うん、これからもずっと一緒に居られるんだなーって、気がしてさ」
「そうか…」
腕が伸ばされ、引き寄せられる。
引かれるまま庵の腕の中へと倒れ込むと、柔らかな口付けが落ちて来た。
啄むようなそれからやがてぬるい舌が口内に侵入してくる。
「っ…」
庵の舌に翻弄されながら、京は導かれるままに毛足の長いラグの上に横たわる。
「…ぉり、ストップ、ちょっ…」
当然の様にたくし上げられるシャツ。
その手を慌てて止めると不満気な視線とぶつかった。
「隣りの部屋にはみづきだってあいつらだって居るんだぞっ」
リビングの壁一枚向こうの部屋は京大と京也の部屋となっている。そしてみづきはいつもは京たちと共に寝るのだが、この日は彼らと一緒に寝ていた。
「お前が騒がなければ良いだけの事だ」
「もし見られたら…!」
すると件の部屋の扉が開く音がして、京は慌てて庵を突き飛ばして服を整えた。
「京」
ひょこっと顔を覗かせたのは、京大と京也だ。
「ど、どうかしたか?」
京が引き攣った笑みを浮かべて問い掛けると。
「俺らにはお構いなく」
「どうぞ続けて下さいませ」
ひらりと手を振って彼らは再び部屋へと戻っていった。
「………」
京が酸欠の金魚の様に口をぱくぱくさせていると、傍らの男は「では遠慮なく」と再び京を押し倒した。

 

 

戻る