11月29日の花:チャ=追想 京、ユキ/幼少期 |
記憶を辿り、一番古いその記憶。 「京、この子は十握ユキじゃ。仲良くするんじゃぞ」 そこには、既にユキの姿はあった。 「ユキです。はじめまして、京サマ」 にこっと笑った少女。 真っ赤な振り袖が、良く似合っていた。 何日か毎に彼女は紫舟に連れられて京の元へとやって来た。 他愛も無い話をしたり、裏手の山を探索したり。 その頃の京の「遊ぶ」という世界はイコールでユキと繋がっていた。 「アレは京の「伴侶」なのじゃから」 それを耳にしたのはいつの頃だっただろうか。 父と祖父が話しているのを偶然聞いてしまった。 話の前後から、祖父の示す「アレ」がユキであると何となく察するが、彼らの交わす言葉の意味の殆どを、まだ幼かった京は理解する事は出来なかった。 何年か後になってからその意味を知り、京は自分はいつかユキと結婚するのかと漠然と思ったのを覚えている。 その頃の京には「草薙」と「ユキ」、そしてもう一つの世界があった。 八神庵。 京にとって、二人目の「友達」と呼べる存在だった。 だが八神の者と、しかも直系と懇意にするのを父や祖父は当然、快く思わなかった。 ある日、祖父は京に告げた。 八神の子伜と付き合うのは止めよ。 ユキを死なせたくないのならば。 京には意味が分からなかった。 どうしてユキが関係あるのか。 けれど祖父はそれを細かに説明する事無く言葉を続ける。 おまえはどの草薙の直系とも違うのだ。 失うわけには行かぬ。 ましてや、八神の目に触れさすなど。 そしてそれ以上は口を閉ざしてしまい、京は訳が分からないまま祖父の部屋を出た。 何という事だ…。 祖父の呟きが聞こえ、京は足を止める。 祓いの草薙、そして八稚女最後の一人、導きの奇稲田。 五百年以上生まれる事の無かった、純血の力。 それがこんな形で揃うとは。 やはり目覚めが近いという事なのか…。 やはり祖父の言葉は理解出来ず、京は自室へと向かった。 |