12月4日の花:シクラメン(赤)=はにかみ
ゲニ、京/95




「珍しい物を持っていますね」
頭上から振って来た声に京はソファから身を起こす。
「これ?」
手の中で転がしていたのは、直径三センチほどの大きさのトパーズカラーが鮮やかな琥珀。
「さっきジャンク屋で見つけてさ。なんか面白いから買っちまった」
「ジャンク屋で?」
「ん。何か他の客が代金代りにおいていったんだとさ」
ほい、と手渡されたそれをゲーニッツは蛍光燈の明かりに透かしてみる。
「これは…中々質のよい物ですね。しかも虫が閉じ込められている」
「そうなんだよ、何かトンボっぽいのがいるじゃん。それが面白くてさー。安かったし」
一$紙幣数枚で購入して来たと言う京。
「それは…とても良い買い物をしましたね」
ゲーニッツが相場を告げると京は素っ頓狂な声を上げた。
「はあ?!何それ!そんなにするわけ?!」
「ええ。他の宝石程の値段は付きませんが、こういった透明度の高い物は特に好まれているそうですからね」
へーえ、と感心しながら京はそれを受け取って手の上で転がしてみる。
暖かな色合いを持つそこに遥か昔から閉じ込められている虫は何を思うのだろう。
ここから出してくれと叫ぶのだろうか。
それとも、この暖かさに包まれていたいと囁くのだろうか。
「アンバーには…」
ゲーニッツの声に京ははっと視線を上げる。
「神の力が宿っているとされています。人間関係の改善や悪縁を絶ちきり幸運を齎す、と」
「ふーん…神の力、ねえ…」
すると京は手にしていたそれを再びゲーニッツに渡し、「これ、やる」と告げた。
「私に、ですか?」
「俺からあんたに、神の御加護を、ってやつ?」
はにかむように笑う京。それにつられる様に男の口元にも穏かな笑みが浮かぶ。
手にした琥珀は、仄かに温かく感じた。
「ありがとうございます」
男は京の前髪を掻き上げ、長身を屈めてその額に口付けを落とした。
「貴方にも、神の御加護があらんことを」
くすぐったさの混じった微かな笑い声がそれに応えた。

 

 

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