12月6日の花:ユキノシタ=軽口
庵京/97




庵が自宅に戻るとリビングから奇妙な歌が聞こえて来た。
「メンマメンマ、メンマラーメン
やーしろーのアホがメンマメンマうるせえかーらぁ
メンマラーメン食ーいたくなってぇ
今日の昼飯メンマラーメンだったけどー
なーんだか操られたかーんじがむーかつーいてえー
社に出会いがーしらに鬼焼き一発食らわせてー
怒ったアーホかーら俺サマ逃亡ーイエーイ
…そういや昔、ピンポンダッシュよくやったぜ…あれ?庵おかえりー」
余りの阿呆らしさに呆然と突っ立っていた庵に京がソファの上から間延びた声を上げる。
ソファの上に仰向けに寝転がった京の手の中には土産屋によくあるウクレレがその音色を弾かれるままに奏でている。
「………夕飯は食べたのか」
取り敢えず、先程の歌?については聴かなかった事にしたらしい。
「まだー。庵、それ茹でてー」
それ、と示されたのはダイニングテーブルの上に投げ出されているスパゲッティの袋と、レトルトの茄子とトマトのミートソース。
「今日さー、社のヤツがメンマが好きだとか言うから無性にメンマラーメン食べたくなってよー。で、昼飯はメンマラーメンにしたんだけど、何かむかついたから夕飯はヤツの嫌いな茄子を食おうと思ってさー」
例え今ここで京が茄子を丸噛りしようが丸呑みしようが七枷自身が見ていないのだからその行為は無意味なのではないだろうか。
「…そうか」
が、それを口にすれば京の機嫌が損なわれる事は目に見えていたので、庵は適当に相槌を打ってスパゲッティの袋を手に取った。
「これくらい自分でやったらどうだ」
「だって庵いつ帰ってくるかわかんねーし」
「先に食べればいいだろう」
水を張った鍋を火に掛けながらそう返すと、京は黙り込んでウクレレをべけべけと鳴らす。
「…一人で食べても美味くねーもん」
ウクレレの音に掻き消されそうなその小さな呟きに庵が振り返った。
「……」
ウクレレを鳴らしながらむくれている京に歩み寄り、その頬に手の甲を当てる。そのまま撫でるように滑らせると、ちらりと京の視線が庵を見上げた。
「何だよ」
「…いや」
庵はその薄い唇に微かな笑みを浮かべ、長身を屈めた。
拗ねてつんと突き出された唇に己の唇を重ね、舌先で擽るとその唇は笑みの形へと代わり、微かな笑い声が零れた。

 

 

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