12月9日の花:ビワ=そっと打ち明ける ゲニ京/96 |
「俺さ、男とすんの、あんたが初めてじゃない」 情事の後、京はぽつりと呟くように告げた。 「昔さ、オヤジの親友が居たんだ。俺が小さい頃は時々ウチに来てた。だけど、三年くらい前だったかな…なんか、おかしくなってきて…」 ベッドの上で上半身を起こし、シーツごと膝を抱える。 その視線はぼんやりと壁へと向けられている。 「よくオヤジが電話で怒鳴ってるのを聞いた。それに手を出すなとか、お前でも扱いきれるモノではないとか、そんな様な事を話していたのは…何となく、覚えてる」 それを聞く男は相槌を打つでもなく、京と同じ様に身を起こし、ただじっと京を見詰めていた。 「それから暫く経って、そいつが家に来た。けど、その日、オヤジは本家に行ってて、お袋も仕事で誰も居なくて…俺は偶々学校から帰って来て、玄関先にそいつが立ってるのを見つけて…久し振りですね、オヤジ、本家に行ってて居ないですよって声を掛けたんだ。そこで始めてそいつの右眼が義眼になってる事に気付いた。一瞬ビビッたけど、そいつ、昔みたいに笑ってたから…だから、俺、言ったんだ。もうすぐ帰ってくると思うから、上がって待ってたらどうですかって。 …ホントに、突然でさ。ほんの数分前には俺が慌てて入れたお茶を、薄い筈なのに美味いって言ってくれてさ。嬉しかったのに。逃げようとしたら殴られて、アタマん中パニックになって、何だこれって思った。何でこんな事になってんだよってさ。…優しい人だったんだ。ガキの頃、遊んでくれたんだ。だから俺、ホント、ワケわかんなくてさ。 気が付いたら自分の部屋で寝てて、夢だったんだと思った。でも体中痛くて、夢じゃ無いってすぐに気付いた。だからってどうってわけじゃなくて、ただ途方に暮れてたら、オヤジが入って来た。 オヤジは辛そうな顔してじーっと俺見ててさ、俺、何か言わなきゃって思って、さっきおじさんが来てたんだけど、オヤジが帰ってくるの遅いから帰っちまったぜって笑ったんだ。そうしたら、オヤジ、謝ったんだ。すまんって、自分の所為だって、何度も…。俺、オヤジがそんな風に謝るの初めて見たから慌てちまってさ。そりゃあ痛かったし恥ずかしかったし、腹も立ったけど…別に女みてえに孕むわけでもないし、思ったほどショックじゃなかったんだ。…なあ」 ぼうっとしたままの視線を傍らの男に向け、問う。 「俺を抱いた事、後悔してる?」 「いいえ」 「まだ俺を抱きたいと思うか?」 男は京へと腕を伸ばし、その体を引き寄せた。 「そうでなければ、戒律を破ってまであなたを抱いたりしませんよ」 京はその首に腕を絡め、だったら、と男の青い双眸を見詰める。 「もっぺん、しようぜ」 悪戯っ子の様な笑みを浮かべ、彼の腹を跨いで座ると男が苦笑する。 「若いですねえ」 「うわ、それすっげーオヤジ臭え」 微かな笑い声の中、その唇は重なった。 |