団地妻ネタは全てお世話になっているぷり子さんへ捧げますv
12月10日の花:シンビジウム(桃)=熱心 K’、京/団地妻 |
その日、京はキッチンに篭もって何やら作っていた。 義弟であるK’が毎度宜しく部屋を訪れた際も出迎えすらせずひたすらそれを裏ごししていた。 「…何やってんだ?」 鍵が開いていた事を良い事に勝手に上がり込んだK’がその光景に訝しげな視線を向けた。 「何って、サツマイモ裏ごししてんだよ」 いや、それは見ればわかるのだが。 「芋きんとん作ってんだ」 「…芋きんとん?」 K’は首を傾げる。 栗きんとんすらまともに食べた事の無い彼が、芋きんとんがどんな物なのか想像が付く筈も無い。 「んー、スイートポテトの和風版みたいな感じ?」 「甘いのか?」 「砂糖入れなきゃそれほどじゃねえと思うぜ?まあサツマイモ自体が結構甘いけどな」 ふーん、と相槌を打って眺めていると、それに気付いた京が裏ごしする手を止めてK’を見た。 「暇なら手伝え」 「…わかった」 ほら、と渡された木べらを受け取り、蒸かして皮を剥いたサツマイモを裏ごしていく。 京はその傍らでまだ剥き終っていないサツマイモの皮を丁寧に剥いていた。 「…どれだけ作るつもりだ」 ボウルの中にはすでにそこそこの量の裏ごし済みサツマイモが溜まっている上、京の目の前にある皿の上には三本ほど蒸かし芋が置かれている。相当な量になる事は間違いない。 「別に良いだろ、お前らよく食うし」 「………」 実を言わなくともK’は甘い物が余り好きではない。 が、京の手作り(今や自分の手作りになりつつある気もするが)の物を食べずにおくなど出来る筈もなく、だが諸手を挙げて喜ぶ事も出来ず、K’は何も言わずただ黙々とサツマイモを裏ごす作業に没頭した。 「それ終ったら次これな」 と京が差し出したのはクリームチーズ。 「これも裏ごしてよく混ぜとけよ」 俺、洗濯物取り込んでくるから。 さっさと手を洗って出ていく京。 K’は小さく溜息をつきながら、それでもその言葉に従ってクリームチーズを箱から取り出す。 そしてふと気付いた。 「…草薙」 キッチンから顔を出して彼の姿を探すと、ベランダで洗濯物を取り込んでいる京の後姿が見えた。 「草薙」 「ん?」 さら、と艶やかな黒髪が流れ、京の視線がこちらへと向けられる。 昼下がりの日の光を浴び、一層透明度を増したように感じるその眼がK’の視線と繋がる。 すとん、と思考の奥まで入り込むようなその眼差しにK’の動きが止まる。 「K’?」 「あ、いや…」 訝しげに眇められたその視線に、まるで自分の中の疚しい想いを覗かれたような気がしてK’は視線を逸らした。 「その…どれだけ入れれば良いのか、わからん」 「ああ、全部入れて良いぜ」 「わかった…」 僅かに頷いてK’は京に背を向ける。 キッチンヘ足早に戻りながらK’はぐっと拳を握り締めた。 何度も言い聞かせた筈だ。 彼はもう、選んでしまったのだ。 兄を、マキシマを選んだからこそ、彼は自分に笑いかけてくれるのだ。 それを、忘れるな。 |