12月11日の花:モンステラ=あやしい関係
京/96




彼の一日は、その大半を室内で過ごす。
ソファやベッドの上でごろごろとしながら雑誌を読んだり、テレビを観たり。
暇に耐え兼ねて然程溜まっていない洗濯物を洗って干してみたり。
家具の位置を変えてみては結局元の位置に戻したり。
その際に家具の裏に溜まっている埃に気付いて掃除をしてみたり。
けれど数日を過ぎる頃にはそれすら面倒になり、けれど退屈には変わりはなく。
首に巻かれた大型兼用の赤い首輪を弄りながら時間を持て余していた。
彼が周りに隠れて時折手がけていた仕事も、初夏の頃に「10月までは仕事はしない」と連絡をしてしまい、今更やはり仕事が欲しいと電話をするのも気恥ずかしい気がする。
外に出ても行きたい所などなかったし、それが「飼い主」にバレた時の事を思うと面倒だ。
何より、知り合いに会いでもしたら更に面倒だ。
もし、現状を尋ねられたらどう答えて良いのかわからない。
やはり、八神庵のペット、だろうか。
学校もバイトにも行かず、ただひたすら彼の部屋でごろごろと時間を持て余して彼の帰宅を待ち、飯を作ってもらって彼の気分によってセックスをしたりしなかったり。
体が鈍りそうだ、と自分一人しかいない部屋でぼやいてみたり。
昔はあれほど嫌だった修行や鍛練が懐かしくなり、一日中筋トレをしてみたり。
同じく嫌っていた瞑想法を行ってみたり。
一日はこんなに長かったのかと、実感させられた。
ほんの二ヶ月前までは、毎日が駆け足で過ぎていくような感覚に捕われていたというのに。
ああ、やはり。
何度思い込もうとしても駄目だった。
自分はあの男に騙されて、裏切られて、可哀相なのだと。
あの男は憎むべき相手なのだと。
そう思い込む事によって全てに蓋をしてしまいたかったのに。
自分は可哀相なんかじゃない。
確かに、幸せだったのだ。
だから、可哀相なんかじゃない。
例え、それが嘘で固められた日々だったとしても。
「俺は、シアワセだったんだよ…」

 

 

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