12月14日の花:ヒヤシンス(紫)=初恋のひたむきさ
K’、マキシマ、京/団地妻




両親は幼い頃に事故で死んだ。
残された俺たちは三人ともまだ未成年だったけれど、親戚と呼べる存在も無く、親の保険金と僅かな財産で生きて行く事になった。
けれどそれだけで三人が生きていけるわけも無い。そんな金はいつか底をつく。
暫くして兄が高校を辞め、働きに出た。
工事現場で働かせてもらっている、と兄は言っていた。
姉は兄の要望により高校は無事に卒業した。
そして看護学校に進んだ姉はそこで知り合った女と仲良くなり、やがて同居するから、と部屋を出ていった。
兄と二人だけの生活が始まった。
相変わらず土方仕事を続けているという兄は、毎日夜遅くに帰宅した。
時折、怪我をして帰って来る事があった。
問い詰めると酔っ払いに絡まれたと兄は笑った。
ある日、兄が家を空ける事になった。
現場が遠いから、二、三日泊まり込みで行ってくる、と。
キャッシュカードと暗証番号を告げ、無駄遣いするなよ、と兄は笑って部屋を出ていった。
そのまま、兄は姿を消した。
捜そうにも兄の務める所が何処なのか知らなかったし、手当たり次第に問い合わせても見つからなかった。
それでも毎月決まって多額の口座に振り込みがされていた。
兄からの連絡はなく、そのまま一年が過ぎた。
その頃の俺は一応高校を卒業でき、近くの引越し業者で働いていた。
コンビにでいつもの様に夕食を買って部屋に帰ると明かりは点いており、玄関には靴が二足。
足早にリビングに向かう。
そこに、彼らは居た。


「久し振りだな、K’」
そう笑ってK’を出迎えたのは、一年も行方を暗ましていた兄、マキシマ。
「へえ、コイツがお前の弟?」
兄の隣りでそう笑った青年へと視線を向けた途端、K’の思考は停止した。
「ホント似てねえな」
艶やかな黒髪が彼の動きに合わせてさらさらと揺れる。
髪と同じ漆黒の瞳が真っ直ぐにK’を見詰め、逸らす事が出来ない。
笑みの形に象られた唇は仄かな朱を浮かべている。
「K’」
マキシマの声にK’ははっとしてマキシマへと視線を移す。
「彼は草薙京。暫くの間一緒に住む事になった」
「宜しくな」
「あ、ああ…」
何となく気の無い返事を返し、漸くK’は我に返った。
「そうじゃなくて!てめえ一年も何処行ってやがった!」
K’の剣幕に怯んだ様子もなくマキシマは笑いながら
「いやあ、ちょっと色々あってな」
の一言で終わらせた。
「まあ追々話すから、もう少し待ってくれや」
彼がこう言い出してしまえばまず今ここでどれだけ問い詰めた所でのらりくらりと躱されるだけだろう。
K’は溜息を吐いて「なら」と彼の隣りに座る京を示した。
「暫くの間って、いつまでの話だよ」
「新居が決まったら出ていくさ。なあ?」
「なーっ」
顔を見合わせて首を傾げ逢う二人。京はともかく、お前がやると可愛くないから止めたまえマキシマ。
「新居?」
K’が訝しげな表情をすると、彼らは見事に口を揃えてとんでもない事を告げた。
「「俺たち結婚しました!」」
「………は?」
本日二度目の思考停止がK’を襲った。

 

 

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