12月15日の花:ベニジウム(黄)=美は常に美しい 社京、庵/97 |
「あっ、や、ぁっ…!」 ベッドサイドの灯りだけが唯一の光源のその部屋に、嬌声が絶え間無く響く。 「ぅんっ…ぁ…」 四つん這いになり背後から貫かれながら、京の唇からは快楽に染まった声が零れ落ちる。 「さすが、アイツらが入れ込むだけあるぜっ…」 その腰を鷲掴んで昂ぶった自身で京を貫き、何度も激しく打ち付けるのは短い白髪の大柄な男。 その笑みの混じった呟きにも、京と同じく快楽の色が滲み出している。 「あっ、あっ、はっ…い、おり、ヒァッ…!」 その唇から漏れた違う男の名に彼は一層強く打ち付け、そして自身を引き抜いた。 「やっ…」 ずるりと引き抜かれる感触に京が振り返り、縋るような視線で男を見上げるとひょいと軽々と仰向けにされて両脚を抱え上げられた。 「コレが欲しけりゃ俺の名前、言ってみな」 押し当てられたそれの感触に京の体がひくりと反応する。 「ぁ…七枷、社…」 「ハイ正解。つーことで次に赤毛の名を言いやがったらイかせねえからな」 「あ、あっ…!」 再び侵入して来た圧迫感に京の背が撓る。 「ホラ、呼んでみろよ、「社」って」 「あっ、ゃ、しろ、もっと強くっ、あっ、あ、や、社っ…」 嬌声に混じって零れ落ちる己の名。 「イイねえ」 社はちろりと自分の唇を舐め、一層深く繋がろうと京の脚を抱え直した。 「………」 目を覚ました瞬間、京は碌に働かない思考の中で見覚えの無い天井だと思った。 微妙な頭痛がする。あと何となく気持ち悪い。 「……ぁー?」 のそりと起き上がり、室内を見渡す。 「………」 やはり知らない部屋だ。が、こういった場所がどういう所かは知っている。 (何で俺ラブホにいるんだよ) 一つだけだが無駄に広いキングサイズのベッド、壁には映画もゲームもカラオケだってお任せ状態のテレビ、部屋の片隅には大人の玩具の販売ボックスがちょこんとその存在を示している。 おまけに自分の体を見下ろしてみれば、一糸纏わぬ姿な上に明らかに情事の痕跡が残っている。 「何でこうなったんだっけ…」 京は昨夜の己の行動を反芻してみる。 まず、試合が終わってホテルに帰る途中、七枷社と出くわした。 そのまま半強制的に近くのバーに連れ込まれ、酒に付き合わされた。 何だかんだ言いつつ話が盛り上がり、結構なペースで酒を飲んでいたのも覚えている。 で。 「……あちゃー」 京は自分の記憶力を恨んだ。 いっその事、すっかり忘れてしまっていれば多少は気が楽だっただろうに。 しっかり覚えていたりする。 「今何時だよ…げ、完全朝帰りじゃんかよ」 京の不在に庵が気付いていなければ良いのだが。 「…無理だろうなー」 京の事に関しては無駄に感の良いあの男が気付かない筈もない。 するとシャワールームの扉が開いてバスローブを纏った大柄な男が出て来た。 「よお、お目覚めか。気分はどうだい、ハニー」 茶化して言うのは件の相手、七枷社だ。 「最悪だぜ、間男」 「ひっでぇ!普通そこはダーリンだろ」 タオルでがしがしとその白髪を掻き混ぜながら社はベッドサイドに腰掛ける。 「事実を的確に述べただけだ」 「つれないねえ。ちょーっと前まではあんなにカワイかったってのによ」 「ちょー嬉しくねー」 京は今更だと言わんばかりに裸体のままベッドを降りた。 「誰かさんの所為で足腰ガッタガタだっつーの」 「いやあ俺って男前だしィ?」 「超絶関係ねえし」 軽口を交わしながら、京は社と入れ替わりにシャワールームへと向かった。 「……」 やがて聞こえてくる水音。 「…ホント、可笑しいねぇ」 社はタオルを首から提げ、くつくつと喉を鳴らした。 あれだけ貫き、犯したというのに。 それでもその額に浮かぶ御印は只管に神々しく。 そして彼の纏うものも変わらず穢れなく美しい。 まるで、肉体など関係ないと言わんばかりに。 「さすがは、というべきか」 あれが、我らが神の寵児か。 京の消えていった扉を見詰めながら、彼は低く笑った。 |