12月16日の花:プラチーナ=目的達成
社、庵、京/97




「で、何でてめえと仲良く朝飯食わなきゃなんねえんだ?」
京は落ち着いた雰囲気のカフェの一角で不貞腐れながらカリカリに炒めたベーコンを齧った。
「イイ思いさせてもらったお礼ってやつ?」
茶化すのは向かいに座った男、七枷社。
「俺のカラダはモーニング一食分かよ」
「ヨーグルトも食うか?」
「食う」
所詮は他人の金。京はここぞとばかりにヨーグルトとフルーツサラダを追加する。
「……餌付け出来ると思ったら大間違いだからな」
しっかり平らげておきながら言っても説得力は皆無と言っても良いだろう。社は相変わらずへらへらと笑うばかりだ。
「お」
京が食後のグレープフルーツジュースを飲んでいると社が何かに気付いたように声を上げた。
「?」
「お迎えが来たぜ」
にやっとさも愉快そうな笑みを浮かべる社に、京はまさか、とカフェの出入り口へと視線を向ける。
「……げっ」
丁度入って来たのは案の定、八神庵その人だった。
「何で庵がここにいるんだよ!」
「俺が呼んだ。とりあえず、草薙ご試食という俺の目的は達成されたから」
「はァ?」
「つまり、俺と熱ーい夜を過ごした草薙クンはきっと足腰立たないだろうから、親切で男前な社クンがお迎えを呼んでやったってワケ」
「クソ迷惑だっつーの!」
ヤバイ。
京は咄嗟に残り少なくなったジュースをストローで吸い上げた。
口内に広がる爽やかな酸味も今となっては攻撃的にすら感じる。
ひたり、と斜め後ろで立ち止まる気配がする。
「よお、赤毛」
先程までのへらへらとした笑みではなく、挑戦的な笑みで社はその男を見上げる。
「………」
社が何やら庵に話しかけているが、京の耳には全く入ってこなかった。
京は疾うに氷だけとなったグラスをひたすらストローで掻き混ぜ、からからと氷の軽やかな音を響かせている。その回転率は速い。
「京」
「!」
びくっと京の動きが停止する。
先程まで周りの音など全く聞こえて居なかったのが嘘のように彼の声は京の中へと響いた。
まるで聴覚が彼の為だけに存在するかのように。
「………」
京はそろりと振り返り、その男を見上げた。
庵はただ無表情に京を見下ろしている。
「帰るぞ」
そしてふいと踵を返して出ていってしまう。
「庵っ」
「じゃあな」
京は慌てて立ち上ると、ひらひらと手を振る社には目もくれないで庵の後を追った。
それを見送った社は
「いやあ、草薙を味わえるわ赤毛に嫌がらせは出来るわで有意義な時間を過ごしたなあ。さすが俺」
わざとらしく頷いた。

 

 

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