12月17日の花:サイネリア=常に快活
影二、京/95




自分が他の子供たちと違うと気付いたのは、小学校に上がってからだった。
小学校に上がるまで草薙の関係者以外と滅多に言葉を交わした事がなかった自分は、どれほど世界を知らずにいたのかを思い知らされた。
普通の子は修行なんてしないし、傍仕えもお目付け役もいない。
父親や祖父を「父様」や「御爺様」などと呼ぶ子もいなかった。
何より、炎を生み出せる事は異端なのだと思い知らされた。
たった一人、肉親以外で炎を出せる友達が居たけれど、すぐに会えなくなってしまった。
普通と違う事は悲しかったし寂しかったけれど、それでも草薙の家にも大切な人たちはいた。
母や幼馴染み、年老いた女中、そして常に自分を見守ってくれた、彼。
大切な人たちがいた。
だから、笑っていられたんだ。



「ヤガミのヤツ、また勝手に何処かうろついてやがるな」
舌打ちしてそうぼやくのは頭にバンダナを巻いた男、ビリー・カーンだ。
「試合までには戻って来よう。放っておけ」
ビリーの傍らで突き放したように言うのは彼と同じチームの如月影二。
二人とも試合の時の格好ではなく、それぞれラフなシャツとジーンズ、またはスラックスという出達だ。
「ん?ありゃあ日本チームじゃねえか」
エレベーターからロビーへと降りて来たのはビリーの言う通り、草薙京、二階堂紅丸、大門五郎の日本チームだった。
「お、こっち見てるぜ?」
その声に影二も視線を彼らへと向ける。
その視線の先には、懐かしさを呼び起こす青年がこちらを見ていた。
するとその視線の先で彼は光り差すようにその表情を明るませ、こちらへと駆けて来る。
そして。
「エージ!」
彼はそのまま大理石の床を蹴って影二に飛びついた。
「……はあ」
影二は抱き留めるでもなく溜息を吐いて京を見た。
「影二もこのホテルだったんだな!つーか早く言えよそういう事は!」
「相変わらずだな、お前は…」
「何だよキサラギ、お前クサナギと知り合いかよ」
ビリーの問い掛けに彼は「あー…まあ…」と曖昧な応えを返すが、京が影二の腕に己の腕を絡ませ、上機嫌で告げた。
「俺と影二は一心同体だったんだぜっ」
「誤解を招くような事を言うな」
「だって影二、俺の行くトコ全部ついてきてたじゃん」
「それが任務だったからだ」
「でも事実だろ?」
「……」
勝手に進んでいく会話に一人取り残されたビリーは追いついて来た紅丸と大門に気付いて片手を上げた。
「ウチの大将が邪魔して悪いな」
「いや、どうせヤガミを捜す事くらいしかやる事がなかったんでね」
だがビリーの言葉に反応したのは紅丸ではなく、京だった。
「八神ィ?」
心底嫌そうな顔をする京。
「この前アイツにケンカ売られたぜ?何だって初対面のヤツにケンカ売られなきゃなんねえんだよ。ちゃんと躾とけよな」
すると影二は意外そうな表情で京を見た。
「お前、覚えていないのか」
「は?何が」
「昔、お前はよく紫舟殿や御隠居に隠れて八神と会っていたではないか」
「はァ?!」
「第一、私がお前の目付けになったのはお前が八神と接触しない様、見張る為だったのだぞ」
「ヘェ?!」
素っ頓狂な声を出す京。すっかり忘れているようだ。
「ゼンッゼン覚えてねえ…」
全く記憶に留めていない京、方や京を殺す事しか頭に無い八神。
極端な話だ、と影二は内心で溜息を吐いた。

 

 

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