12月18日の花:サクララン=安心立命 ゲーニッツ、京/96 |
「アンタはきっとカミサマの所へ行っちまうんだろうなあ」 不意に京がそう呟き、ゲーニッツは聖書から視線を上げた。 「突然ですね」 苦笑する男に、京は「んー…」と気だるげな声を洩らす。 「アンタはちゃんとそこへ行けそうな気がする」 地図がなくても、道標がなくても、ちゃんと真っ直ぐにそこへと辿り着く。 けれど。 「きっと、俺はそこには行けない。ずっとこの辺でうろうろしてるんだと思う」 彼はソファの上で膝を抱え、何処かぼうっとした視線でゲーニッツを見ている。 「何故そう思うのです?」 その問い掛けにも京は間延びした声を洩らす。 「何ていうか、こう、アンタは自分がどうしたいのかとか、そういうのがちゃんとあるんだろうけど、俺はそういうのって考えた事ねえし…神様の元に行きたいと思った事もねえし…死んだら、ちゃんとそこで「終わり」が良い。天国とか地獄とか…そんなの無くて良いから、死んだら全部無くなっちまえばいいのに」 そうすれば、怖くないのに。 彼はその眼を閉じ、眠るように囁く。 「死んだ後の事なんて考えても仕方ないと思うけど…アンタを見てると何となく思うんだよな…アンタは神様の所へ行けるけど、俺は行けないんだなあってさ。信仰心とかじゃなくて、もっと、こう、根本的な所で…」 京はふっと目を開けるとソファを下り、のそのそとゲーニッツの座る椅子へと近寄ってその足元に座り込んだ。 「ゲーニッツはさ、夢とかある?それ、叶うと思う?」 男の脚に擦り寄るように凭れ掛かると緩やかに髪を撫でられ、京は再び眼を閉じる。 「ありますよ。勿論、叶うと信じています」 「俺は…ずっとこのままがいい。俺は、この…」 そこで京の唇は言葉を紡ぐ事を止めた。 眠ってはいないだろうが、それでも彼の意識の殆どは休止状態なのだろう。ゲーニッツの脚に凭れ掛かっている彼の体の力は殆ど抜けている。 「叶うと良いですね、貴方の夢が」 そう柔らかく告げると、京の唇は微かに笑みの形を象った。 |