12月19日の花:スノーフレーク=純粋 社、京/97 |
全てが嘘で固められた世界でも、幸せだと思っていた。 「それ…琥珀、か?」 それまで普通に話していて、普通に笑っていて。 無駄口叩いたり、むくれてみたり。 「へえ、面白いもの持ってるじゃないか」 「おうよ。スゲエだろ、虫入りだぜ」 けれど、それを見た途端、笑い方を見失った。 「見るか?」 差し出されたそれを両手で受け取り、じっと見詰める。 間違いない、これは。 「…なんで、これがここにあるんだ…」 「あ?」 「京ちゃん?」 京は自分の唇が微かに震えるのを感じた。 「これ…ゲーニッツのだろ」 その名を唇に乗せるのは、どれくらい振りだろう。 傍らで紅丸が息を飲んだのが分かる。 「へえ、よく分かったな」 「何でお前がそれを持ってるんだ」 「やつの部屋で見つけたんだよ」 何で、と再びその唇が震える。 「言ってなかったか?俺とゲーニッツはちょっとした知り合いなんだよ」 そんな事、初めて聞いた。 ゲーニッツの知り合いといえば、牧師やその関係者ばかりしか見た事がなかった。 だが、社やそのチームメイトからは彼と同じ何かを感じる。それも確かだ。 だから、もしかしたら彼を知っているのかもしれないと思った事はあった。 けれど、そんな事、どうでも良い。 そうじゃなくて。 「……」 京は手の上のそれをぎゅっと握り締め、拳ごと炎で包み込んだ。 「あーっ!てめえ何すんだよ俺の…」 「これはてめえのじゃねえ…ゲーニッツのだ。俺が、あいつにやったんだ」 京はその炎を何処か遠い目で見詰めながら呟き、その掌をそっと開いた。 樹脂が化石となった琥珀は、その色と同じく穏かに京の手の上で燃えていく。 閉じ込められていた虫も、その身を捕らえていた琥珀と共に灰も残さず燃え尽きた。 虫は、幸せだっただろうか。 暖かな琥珀に囚われた虫。 それを哀れという者も居るだろう。 けれど、虫がそれを幸せだと思ったのなら。 歪んだものでも汚れたものでもなく、ただ純粋にそう思っていたのなら。 共に燃え尽きる事、それはとても。 「……」 炎だけとなった己の掌を見下ろしながら、京の唇は何かを紡いだ。 何処にも届かない、言の葉を。 |