12月20日の花:ハンノキ=剛勇
??/その他




強すぎる光だと思った。
「名は何と申す」
額から背筋へと突き抜けるような凛とした声。
「あ、字を都牟刈(つむがり)、号を草那藝と申しまする」
手が震えた。こんな思いはどれほど振りだろう。
「真名は」
思わず目を見開く。
まさか神名まで問われるとは思わなかった。
眷属神がそれをやたらと口にしない事は彼とて知っている筈だ。
「どうした?」
答える必要はない。
「…真名は」
けれど、抗えなかった。
その光は強すぎて、隠れる為の陰は何処にもありはしなかった。
「天叢雲命と、申しまする」


「天叢雲命や、あの男と会うたのか」
主の問い掛けに彼はこくりと頷いた。
「はい。多少言葉を交わしたのですが、とても強い力を感じました。八尺瓊命は彼を快く思わなかったようですが…」
「おまえの弟は月神だからの。あやつにはちと強すぎる力かもしれん。あの男には天照も手を焼いておるが、高天原を追放されてからは多少なりとも大人しくなったと聞く」
「わたくしもそう聞いております。事実、あの方は始終穏かでおられました」
ですが、と天叢雲命は表情を曇らせる。
「何よりも荒ぶる神である筈のあの御方が穏かであればあるほど、わたくしは同じ武神として不安でなりません。いつまたその剛の気が破と転じ、いつかの様に山河を枯らす禍と成るのではないかと…」
だが、彼の主は案ずるなと微笑む。
「おまえは何も案ずる事はない。それより、飛び梅が申しておったぞ。おまえたちの炎繰りは美しいと」
わたしの炎が美しく舞う姿を見せておくれ。
「はい、では八尺瓊命を…」
「よい、おまえ一人で十分よ。さあ…」
「…はい」
促され、天叢雲命は立ち上った。
結局、彼は真名を名乗ってしまった事を主に告げる事が出来なかった。
この時、もし告げていたなら。
あんな事にはならなかったのかもしれない。

 

 

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