12月21日の花:ツワブキ=困難にも傷つかず
京/98




ここへ来てから、どれくらいの時が流れたのだろう。
初めの頃は日数を数えたりもしたけれど、今はもうそれを放棄した。
必要のない時はカプセルに閉じ込められて、眠らされて。
それが数日間なのか数ヶ月間なのか、自分には知らされなかったから。
だから、あの時からどれだけの時が経ったのか。
今でも分からないでいる。
まるで、数日前の事の様に覚えているのに。
赤と青の炎が交じり合ったあの日。
炎が天を焼き、空が鳴いたあの日。
その炎の中で確かに自分は全てを見たけれど。
己の中の何かが変わっていくのは、それの所為なのだろうか。
それとも、ここでの生活が変えてしまったのだろうか。
ああ、もしもう一度。
いつか、生きてまた彼と会う事が出来たなら。
きっと、その形を思い出せるだろう。
今は曖昧になっている、自分自身を。



これもある意味では「血の暴走」なのだと思う。
「……」
京は薬でぼんやりとした思考を緩やかに働かせながらそう思った。
その全身至る所には端子が貼り付けられ、そこから垂れるコードは一台の機械へと繋がっている。
また失敗だ。
自分を閉じ込めるカプセルの硝子越しに、白衣の男達がそんな言葉を交わしている。
更にその男達の向こう、この目の前の硝子より分厚い硝子の向こうの部屋では、一人の男が倒れている。
否、男だったものが。
炭化して矮小な五体を晒しているそれからは未だに微かな白煙が立ち上っている。
恐らく硝子一枚向こうの室内は嫌な臭いが充満しているのだろう。
ヒトの焼け焦げる臭いが。
京は自分の意思に従わない体を持て余しながらそれを見詰めている。
もう何度この光景を見た事だろう。
自分の炎が、人の命を喰らう光景を。
移殖された炎の遺伝子。
バイロキネシスとも異なるこの能力。
それは他の人間にはうまく馴染まないらしい。
正しく血が、炎が暴走していく。
すぐに、または暫くして発狂する者、発火して燃え尽きる者、目を覚まさない者。
死んでいった、またはこれから死んでいく彼らが何処から「調達」されているのかは知らない。
そして断末魔の悲鳴や発狂して喚き散らしたり笑い続ける彼らの姿を見て、冷酷に失敗作だと吐き捨てる白衣の男達。
今まで自分が現実だと思っていた世界とは掛け離れ過ぎていて、夢なのではないのかと時折思う。
この現状が、ではない。
少なからず幸せを感じていた、あの日々が。
あの日々こそが、この現実から逃れようとして見た夢なのではないだろうか。
そう、思う事がある。
けれど確かに自分は覚えている。
自分が愛し、そして自分を愛してくれた人々の事を。
だから名も知らぬ人達、この炎の犠牲になった人達。
ごめん。
俺はアンタたちの命を踏みつけてでも、生き続ける。
もう一度あの場所に帰りたいんだ。
何より、もう一度。

――京…

あの声に、呼んで欲しい。

 

 

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