12月22日の花:ヒャクニチソウ=不在の友を思う
??/その他




「都牟刈よ、そなたを八俣大蛇から奪ってみせようぞ」
お戯れを。
そう笑う事が出来なかった。
彼のその穏かさの膜の向こうでうねるそれを感じてしまったから。
ああ、矢張りこの御方は荒ぶる神なのだ。
私と同じ、武神なのだ。


「飛び梅、天叢雲命の所在を知らぬか」
男の問いに老木は否、と答える。
全く、と男は辟易したように溜息を落とす。
「タマフリの儀も近いと言うのに…」
そしてはたと意識を集中する。
天叢雲命が帰って来た。
簾を乱暴に持ち上げ、その気配の元へと足音荒く近付く。
「ごゆるりとした御帰り、結構な事だな、叢雲」
「や、八尺瓊…」
怒りを纏った半身の出迎えに、天叢雲命は自分が彼に外出を告げていなかった事に思い至った。
「その…すまぬ…」
いつにない汐らしさに八尺瓊はその怒りを納めて怪訝な視線を彼に向ける。
「何があった。…まさかまた彼の方の元へ参じておったのではなかろうな」
「……」
沈黙を肯定と取った八尺瓊はその不機嫌そうな表情を一層険しいものとした。
「叢雲よ、彼の方に近付くなというのが何故分からぬ」
「八尺瓊、私はあの方が…」
叢雲の声を遮るように先程の老木が二人の傍らに舞い降りた。
「天叢雲命、主様がお呼びぞ」
「相分かった」
「叢雲」
すぐさま風を呼び、飛び梅の背に乗る叢雲を八尺瓊が呼び止める。
だが、
「飛び梅、頼む。我らが主の御座、高志へ」
叢雲は振り返る事なくその場を飛び去った。
「叢雲!」
飛び梅の背に跨り、遠ざかっていくその背を八尺瓊は舌打ちをして見送る。
追う事は出来ない。自分には、そこへ上がる許しを賜っていないのだから。
「天叢雲命…」
疾うに見えなくなった彼のその後姿。


八尺瓊、私はあの方が…



怖い。



 

 

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