12月23日の花:パイナップル=あなたは完璧
庵京/99




まだ一緒に暮らし始めたばかりの頃、彼に言った事がある。
「オマエって何でも出来るよな、ホント完璧って感じ。
俺なんてチャーハンくらいしか作れねえのに。
なんか一人で生きていけますーって感じだよな」
「……」
曖昧な笑みをほんの少しだけ浮かべた彼。
あの時彼は、何と呟いたのだろう。


「へー、美味そうじゃん」
鍋の中でくつくつと煮込まれているそれを庵の傍らで見下ろしながら京は感嘆の声を上げた。
「離乳食ってレトルトのヤツしか見た事なかったからさー。あれ、マズそうに見えるんだよな」
京の言葉通り、鍋の中で食欲をそそる香りを立たせているのはおかゆの様な離乳食だった。
解き卵、人参、鶏肉の混じった鶏がらスープベースのそれは、現在リビングで爆睡中のみづきの夕飯予定だ。
「オマエってホント、何でも出来るよなァ…あれ?」
羨ましそうにそう口にした京は、ふとデジャ・ヴュを感じて思考を過去へと遡らせる。
「京?」
「…ああ、うん、やっぱ前にも似た様な事言ったわ、俺」
そして該当する記憶の発掘に成功した京はくすりと笑みを洩らした。
あの時、彼が呟いた言葉。
それも、今ならわかる。
「前言撤回。オマエってさ、何でも出来るけど、やっぱり完璧じゃないんだよな」
「何だ突然」
訝しげな視線で見下ろしてくる庵の体によりかかりながら京は可笑しそうに笑う。
「お前は俺が居てやーっと一人前になるんだからさ」
京の自信満々な言葉に庵はじっとその深い漆黒の瞳を見下ろしていたが、やがて、ほんの少しだけその唇に笑みを浮かべた。
それはいつか見た曖昧な笑みではなく。
何を今更、と言わんばかりの笑みだった。

 

 

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