12月26日の花:クリスマスローズ=不安を取り除いて下さい
京/99




「……?」
京は寝ぼけ眼を擦りながら寝室を見渡した。
隣りで寝て居た筈の庵とみづきの姿が無い。
時計を見ると、どうやら寝過ごしたらしくその指針は朝を通り過ぎ、昼の中頃を示している。
二人は何処へ行ったのだろうか。
京はベッドを降り、部屋を出た。
誰も居ない廊下、リビング、キッチン。
何だよ、俺、置いてけぼりかよ。
京はリビングへと向かい、ソファに腰掛ける。
合皮張りのソファはひんやりとしている。
暫くして京は突然、ぱたりと横倒れになった。
誰も居ない。
四肢をだらりと投げ出し、京はそう思う。
誰も居ない部屋。
まだ自分は寝ているのだろうか。
これは夢で、目が覚めたら隣りではきっと庵とみづきが眠っているのかもしれない。
そう、彼らが居るのだ。
ここは狭いカプセルの中ではない。
自分の体にはあの忌まわしいコードやチューブは一本も繋がれていない。
庵が「京」と呼んでくれる。
みづきが笑いながら手を伸ばしてくる。
そうだ、ここはあの組織の中ではないのだ。
ソファに自分の体温が移って温くなっている。
そうだ、今度新しいソファを買いに行こう。
ラグマットでも良い。
ふわふわしてもこもこした、暖かそうな家具を。
今はまだ暑いけど、きっともう少ししたらそれがとても暖かに感じるだろうから。
さあ、早く帰って来いよ。
この思考が暇を持て余してしまわない内に、早く。
そしてここが現実なのだと、実感させて。

 

 

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