12月29日の花:ヘリオトロープ=永久の夢
庵京/??




最近、京が部屋に居座っている。
「庵ぃ、勝手に食って良い?」
キッチンから聞こえてくる呑気な声。
「好きにしろ」
駄目だと言った所で聞かないくせに。
勝手に上がり込んで本を読んで、その内ゲーム機を持ち込んでリビングのテレビに繋いで遊んで。
冷蔵庫に何かあれば勝手に漁って、無ければ文句を言う。
ふらりとやってきてふらりと帰って行く。
けれど、
「庵、俺、今日も泊まるから」
最近、京はよく泊まっていく。
ここ数日ずっと。
平日でも当たり前の様にリビングでゲームをしたり本を読んだりしている。
学校にも行かず。まあ、今更の様な気もするが。
「京?」
ふと気付くと、部屋に京が居ない事に気付く。
またコンビニにでも行ったのだろう。
きっとゲームをテレビに繋いだまま。テレビも付けっぱなしで。
そしてその周りには食い散らかした跡でもあるのだろう。
だが、予想に反してテレビは沈黙していた。
ゲーム機も、きちんと片付けられている。
食い散らかした後も無い。
どうやら冷蔵庫の中に気に入るものが無かったらしい。
そういえばここ最近、冷蔵庫の中身に頓着していなかった。
殆どがビールの冷蔵庫の中身に呆れて買い込みに行ったのだろう。
いつもそうだったのだから。
「たっだいまー」
暫くして、京が帰って来た。手ぶらで。
「何しに外に行って来たのだ」
「だってさー、良さそうなモンなかったしー」
よく考えたら今月ピンチだしー。
バイト代入るまであと一週間もあるしー。
「さっさと卒業せんからだ」
「ほっとけ」
そして京はゲーム機の端子をテレビに繋いでゲームを始める。
「…昨日もそこをやっていなかったか?」
「うーるーせっ!ボス戦で負けたんだよっ」
「昨日もそう言っていなかったか」
「だから地道にレベルアップしてんだろうが!」
不意に電話が鳴った。
「はい…ああ、ここに居るが?」
相手は二階堂紅丸からだった。
「京、お前にだ」
「誰?」
ゲームをしたまま振り向きもせず、京が問う。
「二階堂だ」
「今忙しいから後でかけるって言っといて」
「…後からかけるそうだ。…ああ、ゲームに夢中になっている。…わかった」
受話器を下ろし、京の傍らに立つ。
「静殿が帰らない愚息を案じて二階堂に連絡を寄越したそうだ」
「うげっ、何それ。お袋も自分の息子幾つだと思ってんだよ…あっ、やべっ」
「二階堂の方はともかく、家の方には一度顔を見せておくのだな……また全滅か」
「だーまーれー!もう少しで勝てそうだったのに!庵が余計な事言うからだ!」
「ほう?それは失礼した。次は黙っていてやるから勝ってみせるんだな」
「ムカツクー!!」
コントローラーを投げ出す京の姿に庵は喉を低く鳴らして笑う。
数日前まで体調が悪かったのが嘘のようだ。
「俺さ、庵と一緒に居る時間が一番好きだ」
ふと京が呟くように洩らす。
「だから、良いんだ」
「だが、せめて連絡ぐらいしてやれ」
「うーん…」
京はどうしようかな、といった表情で苦笑した。
「気が向いたらな」

 

 

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