お世話になっているぷり子さんへ捧げますv

 

 

ヒイラギナンテン=愛情は増すばかり
K’京




草薙京のプロフィールを見ると、趣味の欄はこうなっている。
詩を書く事。
もし、苦手な事という項目があったら、確実にこう明記されているだろう。
物を片付ける事。
彼の部屋を訪れる度、そう思う。
「……また」
K’は目の前の光景を目にした途端、脱力して深い溜息を吐いた。
床には服やら雑誌、コンビニの袋、テーブル脇に積み上げられた空缶(ほぼアルコール類)のミニピラミッドなどなど。
ソファとローテーブルの上以外は物が溢れているリビング。
「別に俺自身が不便に思ってねえんだからいいじゃねーか」
だが、当の京はしれっとしたもので、平然とソファの上に寝転がって雑誌を読んでいる。
結局、片付けるのはこの状態を見過ごしておけないK’の役目となる。
「何でアンタはあとちょっとの事をやらないんだ」
空缶をビニル袋に放り込みながらK’は文句を垂れる。
床の上の衣類は別に脱ぎっぱなしにされているわけではなく、きちんと畳まれている。ただクロゼットにしまう作業を行なっていないだけで。
雑誌や本もそれぞれきちんと順番に積み上げられている。ただ本棚に片付ける、または捨てる作業を行なっていないだけで。
コンビニ弁当の空き箱だってちゃんと袋に入れて縛って纏めてあるし空缶だって転がっているわけじゃなく一個所に固めてある。捨てるという作業をしていないだけで。
どれもが後一歩という段階で止まっているのだ。
「後で纏めてやろうと思ってたんだよ」
それが彼のいつもの言い分。
「アンタの言う「後」っていうのは何年先の事だ」
「お前がウチに来るまで」
「そりゃ「後でやる」じゃなくて「後でやらせる」っつーんだよ!」
空缶も雑誌も片付け、ゴミも纏め、K’は衣類を抱えて立ち上った。
「適当に入れておくから場所は自分直しておけよ」
「おう、さんきゅ」
雑誌から視線を上げないまま片手をひらりと振る京。
この調子では例えK’が下着の所にトレーナーを詰め、下着をコートと一緒に吊るしておいた所でそのまま気にしなさそうだ。
全く、と溜息を吐きながら京の寝室へ向かう。
寝室の方は精々ベッドのシーツが乱れている程度で、これと言った事はない。
K’はクロゼットに衣類を詰込みながらふと見慣れないものに目が止まった。
「………」
明らかにサイズの大きなドレスシャツ。
見慣れない、だが見覚えが無いわけではない。
というより、こんな無駄に裾の長いシャツを纏っている男は一人しか知らない。
K’はそれを手にしたまま足早にリビングへと戻った。
「草薙!」
「あー?」
京は相変わらずリビングのソファの上でごろごろと雑誌を読んでいる。
K’はつかつかと彼の傍らに歩み寄り、手にして居るそれを突き付けた。
「これ、ヤガミイオリのだろ」
「へ?」
すると漸く彼は雑誌から視線を外し、それへと視線を向けた。
「そうだけど、どうかしたか?」
「アンタのクローゼットに入ってた」
すると京は特にこれといった反応はなく、あっけらかんと。
「あー、畳んだ時に混じっちゃったんだな」
その辺に置いておけよ、あとで庵に渡しておくから。
そして再び視線は雑誌へ。
「そうじゃなくてっ」
「あ?なんだよ」
「何でここにヤツの服があるんだ!」
「何でって…」
京はその目を微かに丸くしてK’を見上げる。
「ここ、庵んちだし」
「は?!」
今度はK’の眼が丸くなる。
「あれ、お前知らなかったっけ?ここ、庵んちだぜ。俺は居候」
随分態度のデカイ居候だ。
「まあアイツは大抵夜中にしか帰ってこねえし、表札も出してねえけどさ。俺の部屋の隣り、庵の部屋だぜ。気付かなかったのか?」
気付くも何も、用の無い部屋を覗く趣味の無いK’がそんな事知っている筈もなく。
「…気付かなかった」
「バカだなーお前」
しみじみと言われてしまった。
「いつから、暮らしてるんだ…?」
「んー…ネツス出てからずっとだから…三年くらいか?あ、でも捕まる前にも一年くらっ…?!」
不意に口付けられ、京の声が途切れる。
その唇は触れるだけで僅かに離れ、「俺は…」と微かな声を零す。
「アンタが誰のモノでも、諦めるつもりはねえ…」
間近で交差する視線。
漆黒の眼がK’の全てを見透かすように覗き込んで来る。
見透かしたいのなら、見透かせば良い。
このナカにはアンタの事しかねえんだから。
「……」
じっとK’の眼を覗き込んでいた京の唇が笑みを象る。
「俺は庵のモノじゃねえし、他の誰かのモノでもねえ。…俺自身のモノだ」
徐に彼の手がK’の右手に触れた。
どんな格好をしていても外す事の無い、赤のカスタムグローブに。
「っ…」
彼の手が触れた途端、そこからさざなみの様な血の震えが全身へと走った。
その痺れるようなざわめきが収まるより早く、彼の左手がK’の右手を包み込む。
「俺から奪ってみろよ、俺自身を」
「…奪ってやるさ」
その挑戦的な笑みに誘われるように、K’は二度目のキスをその唇に落とした。

 

+−+◇+−+
終わっちゃいます。(爆)
因みにこの直後、家主が帰宅して結局何事も起こりません。寧ろ冷戦勃発。(笑)
というか、ちょこっとでも鬼畜テイストなK’にしようと思ってたのですが、駄目でした。
鬼畜のキの字も入りませんでした!!ウチのK’は所詮だっちゅでした!!
相変わらず短い話で申し訳ないのですが、宜しければ受け取って下さいませvv

 

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