ゲルニカ





今日もお忍びでハイランドへやってきたカッツェは、いつもの様にシードの部屋でティータイムを楽しんでいた。
「今日はアップルパイにしてみたけど…美味しい?」
カッツェは持参した手作りアップルパイを頬張るシードをドキドキとしながら返答を待つ。
「ああ、お前ホント料理上手いな」
感嘆と共に返ってきた答えにカッツェは「よかった」と微笑む。
「料理も戦いも強い恋人を持って…ああ、俺はなんて幸せなんだ…」
多少芝居掛かったように遠くを見詰めるシードにカッツェは吹き出す。
「ばっ…もうシードってば…」
カッツェが照れながらアップルパイを頬張ったその時、ダンダンと乱暴に扉が叩かれた。
『シード、入るぞ』
その不遜気な声はまさしくこの国の皇王・ルカ・ブライトである。
「ゲッ!ルカ様だ!カッツェ、隠れろ」
「隠れろって言われても…」
慌てるシードを他所にカッツェは「隠れるトコ無いじゃん」と冷静に対応する。
「何でもいいから早く…!」
「え〜?」
シードの願いも虚しくカッツェが嫌そうに眉を寄せるのと、ルカが返事も聞かず勝手に入ってきたのはほぼ同時だった。
「シード、明日の訓練だが………ん?」
カッツェに気付いたルカがぴくりと反応する。
「ル、ルカ様、これはですねっ!」
シードがどうにか誤魔化そうと立ち上ると、ルカは意外な言葉を発した。
「何だ、来ていたのか」
その言葉に当然シードの頭の中は真っ白になる。だが当のカッツェは「ごめん!」と両手を顔の前で合わせて謝った。
「今日は急いでいたからそっち寄って行けなかったんだ」
呆気に取られるシードの前でどんどん会話は繰り広げられる。
「いや、ただ良いワインが手に入ったのでな。後で部屋に取りに来るがいい」
「わかった、ありがとうルカ!」
話に付いて行けてないシードにルカが突然話を振てきた。
「シード」
「はっはい!!」
「明日の訓練は午後からに変更だ。クルガンは出払っているからお前が兵に伝えておけ」
「りょ、了解!」
「それだけだ」
ルカはさっさと踵を返し、出て行こうとするとカッツェが呼び止める。
「あ!ルカ!前ルカが言ってた本、ウチの書庫にあったよ!!」
振り返ったルカは「そうか」と応える。
「今度持ってくるから!」
そして今度こそルカは出て行った。



「何でお前、ルカ様とあんなにフレンドリーなんだよ!!」
仮にも敵対する両国のトップ同士である二人が何で普通に会話してるんだ!!
それなのにカッツェときたらきょとんとして首を傾げやがる。チクショウ、可愛いじゃねえか!
「あれぇ?僕、言って無かったっけ、ルカと10年来の知り合いだって」
全く聞いた事無い。寧ろ何だそれは。
「だから〜ハイランドの皇族とかって避暑でキャロに行っていたでしょ。僕とジョウイはジルさんを見てみたくて忍び込んだりしてたんだけど、当然見つかっちゃってさ〜。それで逃げてたらジョウイと逸れちゃって……知ってる?ジョウイってちっちゃい事から逃げ足だけは速かったんだよ……で、その時迷い込んだ中庭にルカが居たんだよね」
何なんだ、一体。その、まるでお約束と言わんばかりの出逢いは。いや、今はそれに頓着している場合ではなくて、いやしかし。
「最初はガンガン怒られたり文句言われたりしたんだけどさ〜、ま〜っさかホントに皇子だなんて思ってもみなかったからつい、毎日遊びに行ったんだよね。そしたらルカの方が折れて、好きにさせてくれたの」
こいつのマイペースさと神経の図太さはその頃から既に構成されていたのか…。
「一年に一ヶ月くらいしか会えなかったけど、気付いたら10年も経ってたってワケ。それでルカが暴れだして僕の命が危うくなるわ真の紋章の一つをジョウイなんかと分け合う羽目になるわ気付けば敵軍の大将に祭り上げられてるわでアラマアどうしましょうってモンでさ〜。戦争で近くに駐屯所を構えてるのをいいことにルカに相談しに行ったのにルカは「仕方ない」の一言だしさ〜」
ぺらぺらと喋り出すカッツェに俺は少し引く。
コイツ、実は饒舌なのか?
そうこう思っている内にも尚もカッツェの話は続く。
「ジョウイはジョウイでさっさと裏切るし〜。あの時ジョウイには火の紋章宿しっぱなしだったんだよね〜、全くもう!裏切るなら裏切るって言ってくれなきゃ困るんだよね。防具だって買い換えたばっかだったし武器も鍛えたんだよ?!おかげでこっちは大損だっての!」
………ん?なんかルカ様の話がいつの間にやらジョウイ様の話になってるぞ?
第一、裏切るヤツは「僕、君たちを裏切るから」なんて言って行かないと思うぜ……?



「ま、とにかくそういう事で、ルカは僕が問題起こさなけりゃ特に何も言わないんだよ」
「ふ〜ん………」
俺が取り敢えず曖昧に頷くとカッツェはかたりと立ち上る。
「……帰るのか?」
「うん、今日は夕方から会議があるしルカのトコにも寄らないと……」
それじゃあまたね、とにっこり笑うカッツェを俺は引き寄せるとその唇に口付ける。
「んん?!」
舌をカッツェの口内に移動させ、ちっちぇえ舌に絡めるとカッツェは俺の肩に手を置いてそれに応えてくる。
まだたどたどしいが精一杯俺に応えようとするカッツェがとてつもなく愛しかった。
「……っは、ぁ……」
舌を引き抜き、唇を放すとカッツェはとろんと熱に浮かされたような瞳で俺を見つめてくる。
誘ってんのか?
「シード、どうしたの?」
さあな。
「僕とルカの事、黙ってたの怒ってるの?」
そうじゃなくて…とにかく不安なんだ。
「不安?」
お前は仲間に愛されている。
ルカ様でさえきっとお前に惹かれているんだろうさ。
誰からも愛され、慈しまれる不思議な光を放つ少年。
「……俺の事、好きか?」
「大好き」

即答される答え。

「何があってもお前の還る場所は「ここ」だよな?」
「そうだよ」

即答される答え。

「俺の元に、だよな?」
「シードの元以外、何処にあるって言うの?」

即答される答え。
迷いの無い答え。


それでも不安なんだ。

いつか、俺の元を離れて行くんじゃねえかって
いつか、こうしてお前を抱きしめれなくなるんじゃねえかって
とにかく、不安なんだ。
「シードってば、意外に心配性なんだね」
「お前に対してだけだ」
カッツェはくすくすと笑うと俺の頬に軽いキスを落とした。
「シードが一番、大好きだよ!」
そう言ってお前は軽い足取りでドアへと向かい、一度だけ振り返る。
「僕はちゃんとシードの元へ帰って来るからね!」
極上の微笑みに、俺は手を振った。








「戦が、終った」

「これで、きっと平和になる」

「みんな自分の家に帰って行ったよ」





「僕も、帰らなきゃ…ただいまって、キスして………」





「おかえりって、抱きしめて貰って………」





「シード……何処にいるの?」






「僕………迷子になっちゃった………?」








「………シード………?」








(終)
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今回もワケ分からない話になりました。まさにキング・オブ・駄文って感じ(意味不明)それにしてもシードさん扱い辛い……サブキャラとしてなら使えるのにメインになるとサッパリわかんなくなりました。それにはじめてだ…こんなに余白を使ったのは(爆)それより…なんで俺の書く話はハイランドのヤツみんなカッツェに甘いねん!!って感じですね。ちなみにカッツェがジョウイに付いて愚痴っていたのは高槻の実録です(笑)
(2000/07/05/高槻桂)

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